最新記事

2020米大統領選

意外とタフなバイデンの対中政策

WHAT JOE BIDEN HAS IN STORE FOR CHINA

2020年10月2日(金)16時40分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magw201002_Biden2.jpg

ポンペオ米国務長官は、アメリカでも大人気の動画投稿アプリTikTokの事業分割を強く求めた PHOTO ILLUSTRATION BY BUDRUL CHUKRUT-SOPA IMAGES-LIGHTROCKET/GETTY IMAGES

オバマ政権の対中政策に対しては、経済面での中国の問題行動をほとんど阻止できなかったとの批判があるのは事実だ。「オバマの関心は気候変動問題に偏っていたように思える」と、保守系シンクタンク、アメリカン・ヘリテージ研究所のデレク・シザーズ研究員は言う。「通商問題や南シナ海での拡張主義といった事柄は後回しにされた」

あながち間違った指摘とも言えない。確かに中国は温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定を批准した。オバマに言わせれば、目覚ましい成果だった。だが中国の昨年の二酸化炭素排出量は過去最高を記録し、一方で再生可能エネルギーへの投資は激減している。8月7日にアメリカの情報当局が、中国はバイデン当選を望んでいるという見方を示したのもうなずける話だ。

選挙戦でバイデンは、中国が経済的なライバルであることを認めないような失言もしている。昨年5月、アイオワ州での選挙活動中に「中国がアメリカをたたきのめそうとしているって? ばかばかしい」と口にしてしまったのだ。

それ以降、バイデン陣営はアメリカ国民(そして中国政府)に対し「通商分野において、バイデンは中国にとってくみしやすい相手にはならない」と訴えることに力を注いできた。今年7月に中国との経済関係に関して詳細な政策提言を発表したのも、その一環だった。提言にはトランプ政権のアプローチへの批判も盛り込まれていたが、掲げた目標はトランプと大差なかった。通商問題には厳しい姿勢で臨む、知的財産の窃取への制裁やサイバースパイへの罰則を強化する......。

副大統領時代のバイデンの安全保障問題顧問だったジェイク・サリバンと、カート・キャンベル元国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、バイデン陣営の外交政策アドバイザーの中心的な存在だ。2人が昨年秋に外交専門誌フォーリン・アフェアーズに発表した論文は世間の注目を集めた。2人は関与のための関与政策の時代は「冴えない終焉を迎えた」と言い切る一方で、環境や世界規模の衛生問題(パンデミックの防止を含む)や核拡散防止といったテーマで中国は今後も「重要なパートナー」だと主張した。

バイデンも、両国の軍隊の交流促進や「(軍関係者の)個人的な関係および両国の作戦に対する相互理解の構築」を求めていくことだろう。アジアにおける中国の領土拡張を抑止しつつ、協力も進める──それこそバイデンがやろうとしていることだと、アドバイザーたちは言う。

アドバイザーらによれば、バイデンは中国政府にも、自分がくみしやすい相手ではないことを肝に銘じさせたいと考えているという。

このメッセージは中国政府にも間違いなく届いているだろう。中国の駐米大使で習近平(シー・チンピン)国家主席の側近でもある崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)は、両国関係がいかに急速に冷え込んだかをつぶさに見ていたはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中