「コロナワクチン、ハラルであればいいがハラルでなくてもOK」 インドネシア副大統領、前言翻す
アミン副大統領(右)がワクチンのハラル発言を撤回して、ジョコ・ウィドド大統領(左)もひと安心? REUTERS/Willy Kurniawan
<世界で最多のイスラム教徒を抱える国はコロナ対策にも戒律が関わる?>
インドネシアが中国の製薬会社と共同で開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンに関して、マアルフ・アミン副大統領が「イスラム教で摂取が許されているハラル(許されたもの)である必要は必ずしもない」との見解を示して話題になっている。
それというのもアミン副大統領は8月に「ワクチンといえども体内に摂取する以上はイスラム教徒が摂取を認められているハラルであるかどうかを調査して、ハラルの認証を受ける必要がある」という趣旨の発言を行い、医療関係者やマスコミの間から「イスラム教指導者が命より宗教を優先するのか」などと批判を浴びていたからだ。
アミン副大統領のスポークスマンはこの「ワクチンのハラル問題」に関して「投与されるワクチンの成分に関しては医療上緊急性があることからハラルかどうかは問われない」とのアミン副大統領の発言の真意を説明しているが、イスラム教指導者団体の幹部であり同時に副大統領という要職にある人物の前言撤回だけに安堵の声とともに一部からは失笑も買っている。
イスラム教指導者としてハラルを主張
アミン副大統領はインドネシアのイスラム教指導者の組織である「イスラム教聖職者(ウラマ)評議会」(MUI)の名誉議長の要職にあり、その発言がイスラム教徒、各種イスラム教団体に与える影響は大きい。MUIはファトワという宗教令を出すことのほかに、ハラルの認証も行うインドネシアでは最も権威と力のあるイスラム教組織とされている。
そのMUIの名誉議長でありジョコ・ウィドド大統領の副大統領を務めるアミン氏が、8月5日に中国の製薬会社「シノバック」とインドネシアの国営製薬会社「バイオ・ファルマ」が進めているワクチン開発に関連して「ワクチンの成分がイスラム教徒にとって体内に摂取することを許されているハラルに適合しているかどうかを調べて、お墨付きとなるハラル認証の宗教令をだす準備をするように」と指示したと地元マスコミが伝えた。
イスラム教徒は原則として豚肉、豚肉の成分、アルコール成分などを摂取することが宗教上の禁忌とされる。
2001年にはハラル認証を受けていた「味の素」の製造過程で、触媒に豚抽出の酵素が使用されていたことが明らかになり、味の素現地法人の日本人スタッフらが逮捕されたり、「味の素ボイコット」の動きがでたりしたこともある。
また2018年には「はしか」ワクチンがハラルでないとして、イスラム教徒の摂取が禁止される「ハラム(許されていないもの)」と認定されるなどの事案も起きている。(参考=9月9日「ワクチンにもハラル認証が必要 副大統領務めるイスラム教指導者 命か宗教か、選択迫られるインドネシア」)
ハラル発言に戸惑ったインドネシア社会
このアミン副大統領の「ワクチンもハラルであるべき」との発言は、世界第4位の人口約2億7000万人の約88%を占めるイスラム教徒にとっては重要な指標となるため、インドネシア社会に大きな戸惑いを与えた。
もしワクチンが「ハラル認証」を得られなかった場合、イスラム教徒はワクチンの接種が公には認められないことになるからだ。