最新記事

東京五輪

電通、東京五輪招致へ巨額の寄付とロビー活動 中立性求めるIOCの規定に抵触か

2020年10月15日(木)17時49分

電通によるロビー活動は、実際に活動に関与した3人の人物も確認している。彼らによると、当時の国際陸連や国際水連と関係を持つIOCメンバーに対するロビー活動を電通が主導していた。

その1人は、中村氏の以前の上司で、招致委メンバーとして実際のロビー活動にあたった髙橋治之氏だ。同氏はロイターの取材に対し、中村氏がIOCメンバーで国際水連の会長を務めていたウルグアイのフリオ・セザール・マグリオーネ氏やウクライナの元棒高跳び世界チャンピオンで世界陸連上級副会長であるセルゲイ・ブブカ氏の支持を取り付ける役割を担っていたと指摘した。

電通はこれまで東京招致活動への関与についての詳細な説明を公には行ってこなかった。しかし、実際には、「助言や情報を提供した」(同社広報)という公式な説明よりもさらに深く、東京招致の舞台裏で活発に動いていた経緯が浮かび上がっている。

これらの点について、中村氏は、ロイターの質問に直接答えていない。電通も「当社社員がマグリオーネ国際水泳連盟会長およびブブカ国際陸連(現・世界陸連)副会長に働きかけたという事実はない」としている。

マグリオーネ氏はロイターに対し「(外部からの)圧力を受けて仕事をしたことはない」と回答。ブブカ氏は「私は常に正しく、倫理的に行動してきた」として、東京の五輪招致には関与していないと述べた。

IOCは、利益相反の有無を判断する倫理委員会を設けているが、同倫理委が東京招致をめぐる電通の活動を調べたかどうかについて、ロイターの質問に回答を控えている。

日本政府の加藤勝信官房長官は15日午後の会見で、招致委員会の活動については答える立場にないとの認識を示した上で、「当時の招致活動の主体となっていたJOCおよび東京都において、しっかり説明責任が果たされるべきものと考えている」とした。

コンサルタントとの接点

フランス検察当局による東京五輪招致の贈収賄捜査は、賄賂に使われたと疑われている資金がどのように提供されたかが大きな焦点になっており、捜査状況を知る関係者によると、当局は招致活動において電通が果たした役割についても強い関心を示している。

ロイターの取材に対し、仏国家金融検察庁のエマニュエル・フレッス事務総長は、現在進行中の捜査についてのコメントを避けた。電通は「これまで(当局から)当社への連絡は来ていない」としている。

IOCは東京五輪招致活動に関連して賄賂が使われたかどうかについてコメントしていない。IOCと日本政府はともにフランス捜査当局に協力しているとしている。

関係者によると、捜査の焦点の一つは、シンガポールのブラック・タイディング社代表、タン・トン・ハン氏の動きだ。同氏には、世界陸連元会長で2013年当時、IOCメンバーだったラミン・ディアク氏などに東京への投票を促すため、息子のパパ・マサッタ・ディアク氏に約230万ドルを送った疑いが出ている。

この資金はタン氏が代表を務めていたブラック・タイディングに招致委が支払ったとされている。電通はタン氏をコンサルタントとして採用する招致委の決定に関与していた、とJOC第三者委の調書に記載されている。

電通の中村氏はJOC第三者委員会の調査に対し、招致委のメンバー2人からタン氏について意見を求められ、タン氏が他の主要スポーツイベントで良い仕事をしてきたと評価していることを明らかにした。

また、タン氏がブブカ氏を含むIOCメンバーの票を「押さえる」と信じていたとし、当時、招致委の事務局長だった樋口修資・元文部科学省スポーツ・青少年局長にタン氏雇用への支持を伝えたという。しかし、中村氏は「票読み的な話はここまで伝えていないと思う」と、第三者委に語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 8
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 9
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 10
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中