電通、東京五輪招致へ巨額の寄付とロビー活動 中立性求めるIOCの規定に抵触か
オリンピック・パラリンピックの東京招致をめぐり今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通が東京招致活動に6億円を超す寄付をするなど、「中立性」を求めるIOCの規約に抵触しかねない関与を行っていたことがロイターの取材でわかった。写真は電通のロゴ。2012年7月、都内で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)
2013年に決まったオリンピック・パラリンピックの東京招致を巡り、今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通が東京招致活動に6億円を超える寄付をするなど、「中立性」を求める国際オリンピック委員会(IOC)の規約に抵触しかねない関与を行っていたことがロイターの取材でわかった。
ロイターが閲覧した銀行記録によると、電通は2013年、東京五輪招致委員会の口座に約6億7000万円を寄付として入金した。さらに、日本陣営を代表する形で、開催都市決定への投票権を持つ一部のIOCメンバーに対するロビー活動を主導した、と招致委のロビー活動に関与した複数の関係者がロイターに話した。
電通グループ<4324.T>で広告代理店事業を手掛ける電通はIOCとの長年の取引を背景に、国際的なスポーツイベントに関わってきた。IOCは招致活動の公平性と中立性を確保するため、利益相反を防止する行動規約(第10条)を設け、グローバルなスポンサーやマーケティングパートナーに特定の都市に対する支援や宣伝を控えるよう求めているが、東京の招致活動に対する電通の積極的な後押しはIOCのガイドラインを逸脱していた可能性がある。
ロイターの取材に対し、電通は自社の活動がIOCのガイドラインに抵触してはいないとの認識を示した。同社は「同委員会の求めに応じ、その都度、助言をしたり、情報提供をしていた」と回答、招致活動への関与は通常業務の範囲を超えていないとしている。
IOC側には「大人の理解」
電通はIOCのみならず、ワールドアスレティックス(世界陸連。国際陸上競技連盟が改称)、国際水泳連盟、国際サッカー連盟など世界の競技団体や著名な選手との間に太い人脈と取引関係を持ち、スポーツ関連ビジネスは同社の経営を支える基幹事業の1つだ。
自国開催となる東京五輪大会が同社にとって巨大なビジネスチャンスであることは言うまでもない。東京開催の決定後、同社は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会からマーケティング専門代理店に任命された。
以来、同社は東京大会の企画や宣伝活動の中心的な役割を果たす一方、各企業からすでに3000億円以上のスポンサー料を集めるなど、五輪開催への関与を一段と強めている。
東京招致委員会に行った寄付について、電通は「招致委員会による財界各社に求められた支援要請に対し、適切な社内手続きを行った上で寄付をした」と寄付の事実は確認した。しかし、金額の特定や資金の使途については明確にしなかった。
電通の関わりについて、IOCは、東京陣営が招致活動を行っていた2011年から13年の間、「電通はIOCのマーケティングパートナーではなかった」と語った。また、IOCによると、「(電通は)どの都市の招致にも関連しないサービスを提供するためにIOCと契約していた」という。
しかし、ロイターが閲覧した記録によると、日本オリンピック委員会(JOC)の第三者委員会が2016年、招致決定をめぐる贈収賄疑惑に関連する調査の一環として、電通幹部への聞き取りを実施。その中で、電通のスポーツ事業を統括していた中村潔執行役員は、招致が行われていた当時、同社がIOCのマーケティングパートナーであったと証言している。
同氏は調査の中で、東京招致委との協力における電通の役割について、IOC側には「大人の理解」があったと回答。さらに、それに関してIOCが「表には出てくるなと言っていた」ことも明らかにした。
また、中村氏は第三者委に、IOC委員の情報を招致委に提供したと証言。同氏は「電通が一番知っている」、「日本のためになればとも思っていた」として、対価なくこうした情報を提供したとしている。