菅首相、訪問先のインドネシアで500億円の円借款供与 ジョコ大統領と安保、医療でも協力を決めたが──
安全保障での外務・防衛相の会議を設置
また北朝鮮問題や南シナ海などに関連した安全保障、防衛の分野では今後両国の外務・防衛大臣クラスによる「2+2」会議を設けて緊密な意見交換を図ることでも合意したという。
南シナ海に関してはジョコ・ウィドド大統領も「安全で安定した海域としたい」と述べて期待を示した。
首脳会談、そしてインドネシア側の閣僚が参加した会談と、約2時間の会談で日本、インドネシア側は共に「戦略的パートナー」としての関係を再確認するとともに、さらに関係強化を図ることとなった。
今回の首脳会談を「日本からの経済支援、投資促進」という側面からとらえて多くのインドネシアのメディアは「歓迎ムード」の論調で菅首相を迎えている。
ただ、中国が関連してくる南シナ海の問題や先に米、インド、オーストラリアと日本が開いた日米豪印4カ国外相による会議が経済、安保をめぐる対中国戦略での共同歩調の一環とされていることから、そうしたインド・太平洋における大国が関連した枠組みの中にインドネシアが組み込まれることへの警戒感があるのも事実である。
安全保障での協力をあてにすると大きな誤算も
菅首相はインドネシア訪問前に訪れたベトナムで、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」構想へのベトナムの協力を取り付けた。これは今年のASEAN一連会議の議長国がベトナムであり、南シナ海で中国との間で領有権問題を抱えるというベトナムの立場を重視したものといえる。
ただ議長国ベトナム、ASEANの大国インドネシアを南シナ海問題で日本の思惑に引きこんだとしても、全会一致を原則とするASEANでは共同声明などで、中国を名指しして批判したり問題提起することが、親中のカンボジアやラオスの反対で過去に何度も拒否されてきた経緯がある。
こうしたことからベトナム、インドネシアを説得しても実際にASEANの一連の会議でどこまで対中国で結束できるかははなはだ疑問との指摘も強い。
そしてインドネシア国内にある米中あるいは日米豪印などという大国の安保の枠組みに組み込まれることへの警戒感もあり、ASEANとの安保問題は今後に向けて課題は大きいといわざるを得ない。
菅政権がそうした安保面での協力などをあてこんだうえでの今回のインドネシアへの多額の円借款供与だとすれば、大きな誤算となる可能性もある。インドネシア側のしたたかで計算高い戦略を読み誤った可能性もあるといえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など