イランを追い込むトランプ式の和平「包囲網」
A Nightmare for Iran
もっとも安全保障上それよりはるかに重要なのは、UAEをはじめペルシャ湾岸諸国が、イスラエルとアメリカからイランの核心的な利益を守る「自然の要塞」となってきたことだ。イランは長年、イスラエルによる包囲を防ぐ緩衝地帯を築くためアラブとイスラエルの対立を利用してきた。この対立のおかげで、ペルシャ湾の対岸に「戦略的奥行き」を確保でき、効率的に緩衝地帯を築くことができた。
イランが何より警戒しているのはイスラエルとUAE、さらにはバーレーンが安全保障上の協力関係を築き、軍事情報を共有することだ。そうなれば、イランがイスラエルから自国を守るために利用してきた壁、つまり自然の要塞に亀裂が入ることになる。
イランは以前から、この要塞を守る決意を示してきた。
2017年9月にイラク北部のクルド人自治政府が独立の是非を問う住民投票を強行し、賛成が圧倒的多数を占めた。イラン革命防衛隊は、住民投票の実施そのものに反対していたイラク政府を支持。革命防衛隊の精鋭部隊、クッズ部隊のガセム・ソレイマニ司令官(当時)は、油田地帯のキルクークからクルド人戦闘員が撤退しなければ、イランが支援する準軍事組織をイラク政府軍と共に派遣すると、繰り返し脅した。
イランが住民投票に反対した大きな理由は、独立を支持するイスラエルがイラク北部に足場を築くことを恐れたからだ。アラブ諸国とイスラエルの新たな同盟は、イランにとって、敵対勢力からの圧力や、安全保障と諜報活動に対する脆弱性を高めかねない。
2018年1月にイスラエルの諜報機関モサドが、テヘランの倉庫から重さ約500キロ分の極秘文書を盗み出すことに成功した。核開発に関するこれらの文書は、イランの諜報機関の推測によると、カスピ海を通り、イスラエルの重要な同盟国でイランの北に位置するアゼルバイジャンを経由して、テルアビブに空輸された。
イランの地域安全保障の緩衝地帯に入った亀裂はさらに、イランを経済的に窒息させるというトランプの「最大限の圧力」政策を、バラク・オバマ前政権の経済制裁より効果的かつ手痛いものにしている。アラブ、イスラエル、アメリカの協力関係が強化されることによって、イランが経済制裁を回避するために長く利用してきた抜け道を、アメリカは妨害しやすくなる。
アデン湾に「諜報基地」
アラブとイスラエルの同盟の強化は、中東全域におけるイランの戦略的奥行きを脅かす予兆でもある。トルコのメディア筋によると、UAEはイスラエルに対して、イエメンの南に位置し、UAEが支配下に置くソコトラ島に「諜報基地」の設置を認めている。