インドネシア、コロナ死者1万人突破 政府は打つ手なく迷走し医療崩壊の危機
とはいえ、中国の製薬会社からインドネシアの製薬会社が大量にワクチン提供を受けることが決まり、その買い付けに際して裏で暗躍した中国系インドネシア人が仲介手数料として多額の利益を得た、との情報も流れている。
このように保健当局や医療関係者が感染拡大防止に全力で取り組む一方で、コロナ禍がビジネスとして利用されるという現実がジョコ・ウィドド政権のコロナ対策の手詰まりを象徴しているともいえる。
現実味を帯びる医療崩壊の危機
こうしたなか、インドネシア医師協会(IDI)はこれまでにコロナ感染で死亡した医師が115人、看護師が70人に上ることを明らかにした。防護服不足、人手不足による過剰勤務態勢などが原因とみられているが、こうした深刻な医療従事者の犠牲に対しても政府は適正な対応を取っておらず、各地で医師、看護師不足が問題となり、インターンの現場投入が真剣に検討されているという。
また全34州で最も感染が深刻な首都ジャカルタではコロナ感染者指定病院に設けられた隔離病床の77%がすでに埋まり、重症患者を収容する「集中医療室(ICU)」も83%が利用されており、ほどなく病床不足が現実のものとなるなど「医療崩壊」が目の前に迫ってきている。
このため州政府は周辺地方自治体に病床確保を依頼したり、2019年開催のアジア大会で選手村として利用した施設を治療・収容施設として利用したり、一般のホテルを軽症あるいは無症状の感染者の隔離施設に指定するなどあの手この手を打ち出している。
とはいえ、14日のジャカルタ州全域を対象としたPSBB強化策を宣言したアニス・バスウェダン州知事に対して、ジョコ・ウィドド大統領は「経済活動の停滞、低迷」を理由に反対を唱えて「感染者が爆発的に増加している地域とそうでない地域を区別して一律の規制強化をしないように」と異論を表明した経緯がある。
ジョコ・ウィドド大統領にとってはコロナ禍による経済面での打撃を最小限に抑えるためとはいえ「人命軽視」ともとられかねない反対論に、感染症専門家や医療・保健関係者からは失望の声が高まっている。
「国民の命か国の経済か」という難しい選択に直面しているのが今のインドネシアといえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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