最新記事

アフリカ

アフリカで外国による軍事基地建設ラッシュが起きているのはなぜか

Why foreign countries are scrambling to set up bases in Africa

2020年9月22日(火)14時24分
テオ・ニースリング(南アフリカ・フリーステート大学政治学教授)

悪天候の中、前線基地に着陸を試みるフランス軍のNH90ヘリコプター。サヘル地域でイスラム過激派の掃討作戦中(2019年7月29日、マリのヌダキ) Benoit Tessier-REUTERS

<欧米諸国だけでなくアジアや中東の国々も競うように軍事拠点を確保している>

8月下旬、ケニアの民兵組織が隠密作戦によって、複数のテロ容疑者を夜間に襲撃・殺害していたことが報じられた。報道は、アメリカとケニアの外交・諜報当局者へのインタビューに基づくものだった。

問題の民兵組織は、アメリカとイギリスの諜報当局者たちから訓練や武器などの支援を得ていた。

報道によれば、2004年以降、米CIAはケニアで一般市民の目に触れることなく作戦を展開している。標的の特定、追跡と居場所の特定においては、MI6(英国情報部国外部門)が重要な役割を果たしている。

この報道によって、諸外国がアフリカで幅広く治安作戦を展開している現実に、改めて注目が集まっている。

アフリカの複数の国が、外国の軍事基地を受け入れている。アフリカ連合(AU)平和・安全保障理事会は今も、アフリカ大陸に諸外国の軍事基地が増えつつあることや、それらの基地への兵器の出入りを監視できないことに懸念を表明している。複数のAU加盟国は諸外国との間で二国間協定を結んでおり、アフリカ各地に外国軍の部隊が拠点を築いている。

現在、少なくとも13の外国勢力がアフリカ大陸に軍事基地を保有している。最も活発に作戦を展開しているのはアメリカとフランスだ。これに加えて、アフリカの複数の紛争地帯で民兵組織が活動を展開。最近ではモザンビーク北部での活動が活発化している。

5月には、ロシアがMig-24戦闘機とSu-24戦闘爆撃機をリビアに派遣して現地の武装勢力を支援。アフリカにおけるロシア政府の影響力拡大がその狙いだ。

複数の国が大勢の兵士を派遣

現在、アメリカはアフリカに7000人の兵士をローテーションで派遣。現地部隊と共同で、過激主義者やジハーディスト(聖戦士)の掃討作戦を展開している。兵士たちはウガンダや南スーダン、セネガル、ニジェール、ガボン、カメルーン、ブルキナファソやコンゴ民主共和国をはじめとするアフリカ各地の前哨基地に駐留している。

これに加えて、2000人の米兵がアフリカの40カ国で訓練に携わっており、米特殊部隊はアフリカ東部にあるケニアやソマリアのいわゆる「前方作戦基地」で作戦を展開している。

アメリカ同様、フランスも数多くのアフリカ諸国に部隊を派遣するか、軍事基地を設けている。現在、アフリカ大陸で任務についているフランス軍の兵士は7500人を超えている。最も大規模なプレゼンスを維持しているのがサヘル地域。特にマリ、ブルキナファソとニジェールが国境を接する地帯だ。

アフリカに部隊を派遣しているのは西側諸国だけではない。中国も軍を駐留させており、特にアフリカ大陸東端の「アフリカの角」で活発に活動している。

中国は2008年にソマリア沖のアデン湾で海賊の取り締まりに参加して以降、アフリカへの関与を強め、アフリカの角やアデン湾で海賊対策として海軍のプレゼンスを維持してきた。2008年から2018年の間に、中国海軍はさまざまな海上警備任務のために2万6000人の兵士をこれらの地域に派遣している。2017年には、ジブチに国外初の軍事基地を建設した。

ジブチには2003年に、アメリカも軍事基地「キャンプ・レモニエ」を建設。このキャンプ・レモニエに隣接して、フランス、イタリア、スペイン、ドイツと日本の基地が設置されている。

中国は広さ36ヘクタールの軍事施設を建設し、兵士数千人が滞在可能な施設に加えて、船舶やヘリコプター、固定翼機のための施設も用意した。このジブチの軍事基地は、アデン湾の海賊対策、情報収集、東アフリカ在住の中国人市民(非戦闘員)の退避、中国軍の兵士が派遣されている地域での国際平和維持活動と対テロ作戦という、5つのミッションを支援するために建設したものだ。

インドもまたアフリカでの海軍のプレゼンスを強化している。インドはこの地域における中国の軍事力強化に対抗するために、インド洋全域に軍事施設のネットワークを構築した。

海賊から海上交通路を守ることも狙いだ。インドはアフリカの角とマダガスカルの状況を監視するために、現地に複数の部隊を派遣。さらにセーシェルやモーリシャスなど、アフリカ沖にある複数の国の沿岸部に32のレーダー監視施設を建設する計画だ。

中東では、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)の2カ国がアフリカに目立ったプレゼンスを維持している。

トルコは2009年に、ソマリア沖で国際的な海賊対策のタスクフォースに参加。2017年にはソマリアの首都モガディシュに軍事基地を開設した。ソマリア軍の新兵に訓練を提供することがその目的だ。トルコはまた、ソマリアの海軍と沿岸警備隊も支援している。

アラブ首長国連邦は2015年以降、エリトリアに軍事基地を持っている。この基地は軍用飛行場や軍港もあり、イエメンの反体制派の掃討作戦を展開するために使われている。

諸外国の軍の思惑は

アフリカの角が諸外国の軍事活動の中心地であることは明らかだ。複数の国が国際平和への脅威に対応するため、テロ組織や海賊を制圧するため、外国の治安活動を支援するために、ここに部隊を派遣している。

だが各国がアフリカに軍事基地を設ける動機は、ほかにもある。商業的な利益を守るため、友好国の体制を支援するためや、世界的に競争が激化する中で注目されている大陸で優位な地位を確立するためだ。

もちろん、アフリカが特別な訳ではない。たとえばアメリカは、ペルシャ湾岸地域にもかなりの規模の軍や治安部隊のプレゼンスを維持しており、バーレーンやクウェート、カタールやアラブ首長国連邦に基地を持っている。

外から見ると、諸外国の政府がアフリカに無理やり軍を送り込んでいるように見えるかもしれない。だが実際には、アフリカの多くの国の政府が彼らを進んで受け入れている。

主要国との二国間協定は、アフリカの国々に収入をもたらす。たとえば中国軍の基地を受け入れたジブチは、経済の大部分を中国からの投資に頼っている。

外国軍のプレゼンスは、テロ組織との戦いにおいても大きな役割を果たしてきた。たとえば東アフリカのイスラム武装組織アルシャバブや、マリのジハーディストとの戦いだ。アフリカの複数の国は、諸外国の政府に進んでテロ対策の助言や情報、支援を求めている。

だが諸外国の部隊を受け入れることには、デメリットもある。たとえば、さまざまな国が治安活動や軍事活動を展開していることで治安対策の「過密状態」が生じ、これらの活動が意図しない矛盾をもたらすことも多い。

アジア諸国がプレゼンスを強めていることで、一部主要国の間で競争が激化する事態も起きている。中国がジブチでプレゼンスを拡大していることを懸念する声もあるし、中国がアフリカとインド洋で影響力を拡大していることには、日本とインドの政界や安全保障当局が不快感を抱いている。

そしてアフリカ諸国の間には、諸外国の治安活動や軍事活動をどうやって規制するかについての合意がない。今のところ、各国の軍がばらばらに活動を展開している状態だ。

アフリカの平和維持能力は大幅に向上したものの、AUは依然として、平和維持活動については外部からの資金・資源の提供に大きく頼っている。そのためアフリカには、戦略や作戦、戦術について自分たちだけで判断を下す自由がない。武装紛争に対応する上でのこうした弱点がある限り、諸外国の軍や情報機関がアフリカ大陸で活動を続ける状況は続くだろう。

アフリカがこの資金力と意思決定権を取り戻さない限り、アフリカ諸国は、外国軍による大々的な関与についてのAU安全保障理事会の懸念に耳を傾けることはできないだろう。

The Conversation

Theo Neethling, Professor of Political Science, Department of Political Studies and Governance, University of the Free State

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中