西側メディアを装うロシアのプロパガンダ戦略 旧ソ連時代の手口が復活か
フリーランスで働く英国在住の記者、ローラ・ウォルターズさん(写真)は6月、非営利メディア「ピース・データ」の編集担当者らに、中国がニュージーランドに及ぼす政治的影響について1000語の記事を送った。ロンドンで2日撮影(2020年 ロイター/Toby Melville)
フリーランスで働く英国在住の記者、ローラ・ウォルターズさんは6月、非営利メディア「ピース・データ」の編集担当者らに、中国がニュージーランドに及ぼす政治的影響について1000語の記事を送った。帰ってきた反応には熱がこもっていた。
「あなたの記事に深く感謝を申し上げます。中国(あるいはロシア)のような全体主義国家は世界中で、最も強力な民主主義国家に対してさえ何とか方法を見つけて干渉しようとしている。信じ難いことですね」。ロイターが閲覧したこの電子メールは、コミュニケーション・マネジャーのアリス・シュルツ氏から6月15日付で送られてきたものだ。
しかし、シュルツを名乗る人物からのメールこそ、そうした「干渉」の一環らしいことが分かってきた。
左派有権者への影響力ねらう
フェイスブックとツイッターは1日、米連邦捜査局(FBI)の情報提供を受けて調査した結果、米国、英国その他諸国の左派有権者を狙ったロシアによる政治干渉運動で、ピース・データが中心的役割を果たしていたことが判明した、と発表した。
フェイスブックによると、ピース・データはフリー記者をそそのかして雇い、米大統領選や新型コロナウイルス感染症の世界的大流行、西側諸国の「戦争犯罪」などをテーマに記事を書かせることに成功していた。
ピース・データに執筆した記者6人への取材と、ロイターが閲覧した電子メールによって、ソーシャルメディアを通じた記者らへの接近手法や、1本当たり最大250ドル(約2万7000円)という報酬のほか、時として記事に政治的な切り口を入れるよう促していた実態が明らかになった。
ピース・データの共同編集者、ベルナデット・プラスキルを名乗る人物はロイターに電子メールで、「そうした指摘に非常に困惑しており、指摘を全面的に否定する」と告げてきた。この人物は電話やビデオコールでのやり取りを拒否した。
折しもロシアに関しては、2016年に続いて今年11月の米大統領選に再び介入しようとしていると警告する声が出ている。
ロシアはこうした指摘を繰り返し否定。ロイターは2日、ピース・データについて同国にコメントを要請したが、今のところ返信は得られていない。
ウォルターズさんは「自分が書いた記事は、まさに16年(米大統領選)にロシアが干渉したことに触れていた。今ではその皮肉が身にしみる」と語る。この記事の報酬は250ドルだった。