最新記事

コロナ禍に蘇る自民党「密室政治」 総裁選にも派閥の論理

2020年9月4日(金)11時40分

安倍晋三首相の後継者選びの行方は、自民党総裁選の投票前に決まりつつあるようにみえる。安倍首相が辞任を発表する数カ月前から、すでに自民党の重鎮の間で駆け引きは始まっていた。写真は2016年2月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

安倍晋三首相の後継者選びの行方は、自民党総裁選の投票前に決まりつつあるようにみえる。安倍首相が辞任を発表する数カ月前から、すでに自民党の重鎮の間で駆け引きは始まっていた。

9月14日の総裁選は菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3人が戦う構図となったが、安倍政権をずっと支えてきた菅氏は、出馬を正式表明する前から党内7派閥のうち5派から支持を得ていた。

議院内閣制の日本は通常、与党第一党の党首が首相となる。菅氏が総裁選に勝利すれば、首相になるのは確実だ。

菅氏が次期首相の最有力に浮上するまでの一連の動きは、総裁選びが政策論争よりも派閥の力関係、議員と議員の人間関係、さらには党の資金を握る実力者とのつながりで決まるという、古い政治が今も生きていることの表れだとの声が、党内から聞こえる。

「密室」で決まったというイメージは、次の総選挙に向けて自民党を引っ張る菅氏にはマイナスに作用するかもしれない。

「政策論争は党首を決めることとは関係ない」と、自民党の政調会長だった亀井静香氏は言う。83歳になる亀井氏は今から20年前、小渕恵三首相が脳梗塞で倒れた後、ホテルの1室に集まった自民党の重鎮5人のうちの1人だ。5人は、その部屋の中にいた森喜朗幹事長を次の総裁とした。

保守政党の自民党は、長く派閥政治に支配されていた。派閥の領袖は選挙資金を集め、配下の議員に分配、選挙を支援する。そうして確保した数の力で、派閥内から党総裁を送り出す。

各選挙区1人しか当選しない小選挙区制度を導入した1990年代半ばの選挙制度改革で、派閥の影響力は弱まった。しかし、党内や閣僚ポストの配分や、総裁選の勝敗を決める上で、派閥の領袖は今も重要な役割を果たしている。

党内からも異論

自民党内では珍しく菅氏はどの派閥にも属していないだけに、今回の動きは際立つ。党関係者は、実力者である二階俊博幹事長との接近が菅氏の立場を押し上げたと指摘する。菅氏と二階氏は6月以降、3回食事をともにしている。

このころ安倍首相は支持率が低迷、辞任するかもしれないという見方が出ていた。持病が悪化したとの報道が、その観測に拍車をかけた。

81歳になる二階氏の党内における影響力は絶大で、選挙制度改革前は各派閥の領袖が決めていた選挙資金の配分を、幹事長として一手に引き受けている。

「古い政治をやる二階さんが出てきた。二階さんは国民の世論だとか関係ない」と、東洋大学の薬師寺克行教授は言う。「菅さんと組んで、党内で根回しをして、短期間でポスト安倍は菅という流れを作ってしまった」と、薬師寺教授は話す。

二階氏にとっては菅官房長官と組むことで、幹事長職にとどまる可能性が高まるメリットがある。ロイターは二階氏のコメントを得られていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ米大統領の就任後100日、深まる

ワールド

ドイツ、EU財政ルールの免責要請 国防費増額で

ビジネス

中国外務省、米中首脳の電話会談否定 「関税交渉せず

ワールド

独経済相にエネ業界幹部ライヒ氏、外相に外交専門家ワ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中