最新記事

脱北者

カナダが脱北者の難民申請に冷淡になったのはなぜ?

After Canada Denies Asylum, Kim John Il’s Former Bodyguard Fears He’ll Be Killed

2020年9月3日(木)17時10分
マシュー・インペリ

一番怖いのは、金正恩が韓国に李の身柄引き渡しを要求することだとこの脱北者は言う KCNA via REUTERS

<金正日のボディガードを務めた脱北者の難民申請がカナダに却下され、韓国に送還されれば命が危ないと訴えている>

北朝鮮の最高指導者・金正恩の父で、2011年に死去した金正日(キム・ジョンイル)の身辺警護をしていた人物がカナダ政府に難民認定を却下され、韓国に送還されれば、殺される危険性があると訴えている。

「カナダが私を韓国に送り返せば、死ぬのは確実だ」

問題の人物は57歳の李英國(イ・ヨングク)は通訳を介してカナダのトロント・スター紙の取材に応じ、脱北して韓国で暮らしていた当時、北朝鮮当局者に誘拐されそうになったと話した。

李が2度目の試みで、中国との故郷を越え、ようやく脱北に成功したのは2000年。その後、韓国に向かい、首都ソウルで暮らしていたが、2016年にカナダで難民申請をするため、妻と2人の子供と共にカナダ最大の都市トロントに渡った。

若き日の李が当時の北朝鮮の最高指導者だった金正日の警護官に抜擢されたのは1978年のこと。10年間その任務に就いた後、1988年から1991年まで軍の顧問を務めた。その後脱北を試みるも、1回目は当局に見つかって、政治犯収容所に送られたと、李はスター紙に語った。

著書で北朝鮮の実態を暴く

「耀徳(ヨドク)収容所では、与えられる食事はわずかで、生き延びるために自力で食料を確保する必要があった。そこで亡くなった囚人仲間を山に運んで埋める作業をやります、と申し出た。囚人たちは身元が分かるようなメモを薬瓶に入れ、自分が死んだらその瓶も一緒に埋めるよう仲間に頼んでいた。私が埋めた遺体だけでも300体を超えた」

韓国にいる間、李は脱北者の人権擁護活動に携わり、そのために北朝鮮指導に目をつけられ、たびたび脅迫や嫌がらせを受けたという。にもかかわらず、カナダの移民難民委員会は7月31日、「不認定」の判断を示した。脱北を試みた後の行動の説明に信憑性がなく、北朝鮮で軍の顧問をしていた時の金正日との関係を実際より小さく見せようとした節があるからだという。

「李は脱北を試みたことと脱北後に2冊の著書を発表したことで狙われるようになったと主張しているが、それにしては(活動を裏付ける)記録がほとんど存在しない」と、移民難民委員会のブレンダ・ロイド審査官はスター紙に述べている。

著書の1冊『私は金正日の極私警護官だった』で、李は金王朝の独裁体制の異常さと政治犯収容所の恐るべき実態を暴いている。

<参考記事>韓国で脱北者母子が餓死、文在寅政権に厳しい批判が
<参考記事>「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中