最新記事

イギリス

コロナ対策、EU離脱......ジョンソン政権の命運を決する「Dデー」

Boris Johnson’s D-Day

2020年9月18日(金)17時30分
アレックス・ハドソン

それに、この措置には、大量解雇を先延ばしする効果しかないとの批判もある。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行によれば、失業率は7.5%前後に達する見通しだという。

「早々と雇用維持補助金制度を打ち切るのは、まだ経済が回復していないのに回復したかのように装うことにしかならない。それは破滅への道だ」と、ユングは指摘する。

ジョンソン政権が直面している課題は、これだけではない。来年度予算の策定には、難しいバランスを取ることが求められる。イギリスでは今年、政府債務残高の対GDP比が1960年代以来はじめて100%を突破した。

保守党は伝統的に、小さな政府、少ない税負担、財政黒字を好んできた政党だ。しかし、その伝統を貫くことは難しいだろう。新型コロナウイルス対策で政府支出が膨らんでいるし、英政界では増税の噂もささやかれている。

「財務省当局者ですら、歳入確保の手だては富裕層への増税しかないという現実を認めている」と、投資顧問会社デベアー・グループのナイジェル・グリーンCEO兼創業者は述べている。

政府の財政状況は、新型コロナウイルス感染の第2波が襲来すればいっそう厳しくなる。英政府の主席医務官を務めるクリス・ウィッティーは既に、安全を守りつつ、これ以上多くの社会・経済活動を再開することはできないと述べている。つまり、学校を再開するのであれば、一部の経済活動を閉鎖しなくてはならないのだ。

保守党にとって有利な材料の1つは、次の総選挙を2024年5月まで行わずに済むことだ。自分たちの政策が有効だと実証するための時間はたっぷりある。ただし、それまでに政策が実を結ばなければ、逃げ隠れはできない。

EUも英も決裂辞さず

ジョンソン政権が直面する大きな課題としては、EUとの交渉も見落とせない。EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は、10月31日を交渉期限と設定している。当事者の発言を全て額面どおり受け取るわけにはいかないが、EU側もイギリス側も決裂を辞さない姿勢を示している。

「交渉がまとまる可能性はまだあるし、私たちは今もそれを目指している。それでも、合意に達するのが容易でないことが次第に分かってきた」と、ジョンソンの報道担当者は述べている。

もし合意がまとまらないままEUを離脱することになれば、イギリスは最大の貿易相手であるEUとの自由貿易を失うことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中