コロナ対策、EU離脱......ジョンソン政権の命運を決する「Dデー」
Boris Johnson’s D-Day
それに、この措置には、大量解雇を先延ばしする効果しかないとの批判もある。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行によれば、失業率は7.5%前後に達する見通しだという。
「早々と雇用維持補助金制度を打ち切るのは、まだ経済が回復していないのに回復したかのように装うことにしかならない。それは破滅への道だ」と、ユングは指摘する。
ジョンソン政権が直面している課題は、これだけではない。来年度予算の策定には、難しいバランスを取ることが求められる。イギリスでは今年、政府債務残高の対GDP比が1960年代以来はじめて100%を突破した。
保守党は伝統的に、小さな政府、少ない税負担、財政黒字を好んできた政党だ。しかし、その伝統を貫くことは難しいだろう。新型コロナウイルス対策で政府支出が膨らんでいるし、英政界では増税の噂もささやかれている。
「財務省当局者ですら、歳入確保の手だては富裕層への増税しかないという現実を認めている」と、投資顧問会社デベアー・グループのナイジェル・グリーンCEO兼創業者は述べている。
政府の財政状況は、新型コロナウイルス感染の第2波が襲来すればいっそう厳しくなる。英政府の主席医務官を務めるクリス・ウィッティーは既に、安全を守りつつ、これ以上多くの社会・経済活動を再開することはできないと述べている。つまり、学校を再開するのであれば、一部の経済活動を閉鎖しなくてはならないのだ。
保守党にとって有利な材料の1つは、次の総選挙を2024年5月まで行わずに済むことだ。自分たちの政策が有効だと実証するための時間はたっぷりある。ただし、それまでに政策が実を結ばなければ、逃げ隠れはできない。
EUも英も決裂辞さず
ジョンソン政権が直面する大きな課題としては、EUとの交渉も見落とせない。EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は、10月31日を交渉期限と設定している。当事者の発言を全て額面どおり受け取るわけにはいかないが、EU側もイギリス側も決裂を辞さない姿勢を示している。
「交渉がまとまる可能性はまだあるし、私たちは今もそれを目指している。それでも、合意に達するのが容易でないことが次第に分かってきた」と、ジョンソンの報道担当者は述べている。
もし合意がまとまらないままEUを離脱することになれば、イギリスは最大の貿易相手であるEUとの自由貿易を失うことになる。