コロナ対策、EU離脱......ジョンソン政権の命運を決する「Dデー」
Boris Johnson’s D-Day
ジョンソンは第2次大戦時のチャーチル首相に触発されていると言われる JESSICA TAYLOR-U.K. PARLIAMENT-REUTERS
<チャーチルに憧れるジョンソン英首相に、長期政権か短命政権かを分ける運命の「11月1日」が近づいている>
ボリス・ジョンソン英首相は、第2次大戦期に首相を務めたウィンストン・チャーチルへの憧れを抱いてきた。身ぶりや体格もよく似ているし、チャーチルの伝記を執筆したこともある。
歴史学者のアンドルー・ロバーツによれば、ジョンソンは新型コロナウイルスへの対応でも、「1940年のチャーチルの精神」に触発されているという。
ジョンソンをどこまでチャーチルと重ね合わせて見るべきかはともかく、現在の保守党政権がチャーチル政権と同様の課題に直面していることは間違いない。英経済を立て直して、「ニュー・ノーマル(新しい常識)」を定着させなくてはならないのだ。
コロナ対応をめぐる議論では、戦争にまつわる用語がしばしば用いられる。ここでも戦争の比喩で表現すれば、今のイギリスには、第2次大戦のノルマンディー上陸作戦開始日「Dデー」に匹敵する重要な節目の日が近づいている。イギリスの未来を左右する運命の日、それは11月1日だ。
11月1日は、コロナ禍のなかで社員の雇用を維持した企業への補助金制度が終了する翌日。そして、イギリスのEU離脱をめぐる交渉に関して、EU側が設定している交渉期限が切れる翌日でもある。
大きな崖がそこにある
その頃、寒い季節になり、インフルエンザの流行に加えて、新型コロナウイルス感染者数が再び増加し始めると予想されている。11月1日は、クリスマス商戦が始まる日でもある。過去の例に従えば、その前の週には、政府が来年度予算案を発表する予定だ。
では、この日、何が起きるのか。現時点で確実に言えることはあるのか。
「10月末のイギリスには、さまざまな面で大きな崖が待ち受けている」と、進歩派の有力シンクタンク「公共政策研究所(IPPR)」のシニアエコノミスト、カーステン・ユングは本誌に述べている。
「この秋、英経済の動向がどうなるかが全く見通せない。当初、コロナ後の経済はV字回復を果たすと期待されていた。けれども、実際には景気回復の足取りはもっと遅いように見える。政府の支援が打ち切られるまでに、経済は十分に回復するだろうか」
英政府がコロナ対策で導入した雇用維持補助金制度は、幅広い政治的立場の人たちから歓迎されたが、莫大なコストがかかる。現在の制度を続けるには、1カ月当たり140億ポンドもの支出が伴う。