中国・ロシアのスピード開発コロナワクチンは「普通の風邪」ベース 効果は7割未満との指摘も
こうした中で、Ad5以外のアデノウイルスをベクターに利用するか、あるいは別の遺伝子運搬メカニズムを用いる複数の研究が行われている。英オックスフォード大学と英アストラゼネカはチンパンジーアデノウイルスを、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は比較的希少なウイルス株の「アデノウイルス26型(Ad26)」をそれぞれベクターに選んだ。
カナダのマクマスター大学出身で、2011年にカンシノ初のAd5由来ワクチンを結核用に開発する作業に携わったZhou Xing博士。彼のチームは現在、吸入式のAd5由来新型コロナワクチンを開発中。この方式により、人体が既に持ってしまっているAd5への免疫問題を回避できる方法を理論化しつつある。
それでもXing氏は、実用化競争ではこのワクチンよりもオックスフォード大のワクチン候補の方がかなり優位に立っていると認めた。Ad5をベクターとするカンシノのワクチンの投入量が増えると、発熱を引き起こす可能性があり、ワクチンへの人々の疑念をかき立てる恐れもあるという。
米フィラデルフィアにあるウィスター・インスティテュート・ワクチン・センターのファウンディング・ディレクター、ヒルデガンド・エルトリ博士は、Ad5由来ワクチンは抗体を持っていない人には有効だろうが、多くの人には抗体があると指摘する。専門家の話では、中国と米国でAd5の抗体を持つ人の割合はおよそ40%、アフリカでは最高で80%に達する。
HIV感染のリスクも
一部の科学者は、Ad5由来ワクチンが、後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染リスクを高めるリスクに警戒感を示している。
米メルクが04年に行ったHIV向けAd5由来ワクチンの臨床試験では、Ad5の抗体を持つ人のHIV感染確率が高まることが判明した。
一方、ロシアのガマレヤ研究センターのコロナワクチンは、Ad5とともに、J&Jと同じAd26の2種類をベクターに利用しており、ディレクターのアレクサンダー・ギンツバーグ氏は、Ad5の免疫問題に対処できると強調した。フィラデルフィアのエルトリ氏によれば、これで片方に免疫問題がある人でも、もう片方が機能することが期待できるという。
もっとも多くの専門家は、ロシア政府が大規模臨床試験のデータなしで10月からリスクの高いグループに接種を開始すると宣言したことについて、大丈夫だろうかと疑っている。
J&Jのワクチン開発を支援している米ハーバード大学のワクチン研究者ダン・バルーチ博士は「ワクチンの安全性と効果を証明することが非常に大事だ」と訴え、大規模臨床試験で望ましい、もしくは必要な結果が得られない場合も多々あると付け加えた。
(Allison Martell記者、Julie Steenhuysen記者)
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