最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

ファーウェイ・TikTokが対中制裁を生き抜く理由

THEY WILL SURVIVE

2020年8月26日(水)16時50分
高口康太(ジャーナリスト)

ファーウェイ、そしてTikTokも中国市場だけで十分 MATTHEW CHILDS-REUTERS

<コロナ禍でグローバル化が揺らぎ、米中の対立が激化、中国IT企業は海外展開できなくなり破綻の危機に陥る──というのは本当か? 本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

今の危機をどう捉えているか? ファーウェイ・ジャパン(華為技術日本)の王剣峰(ジェフ・ワン)会長は筆者の質問にこう返した。

「20年前のほうがつらかったなぁ」

20200901issue_cover200.jpg
世界的な大企業であるファーウェイだが、1987年の創業以来、何度か存続の危機に直面してきた。昨年来の米国による制裁も大事件だが、王会長が入社した2001年はドットコム・バブル崩壊の影響からいつ倒産してもおかしくない状況だった。王の言葉は強がりに聞こえなくもないが、さて、いずれの危機がより重大なのか?

米国の制裁は確かに厳しい。だが、20年前と違うのは中国市場の大きさだ。中国のGDPは2019年に約14兆ドルと、2001年の約10倍にまで成長している。世界市場から閉め出されたとしても中国市場を取るだけで「世界的大企業」の座を維持できてしまう。

ファーウェイは2020年第2四半期にスマホ出荷台数世界1位を記録した。米国の制裁でグーグルのサービスが搭載できず世界販売は落ち込んでいるが、新型コロナウイルスの抑え込みに成功した中国での販売がいち早く回復し、初の1位奪取を成し遂げた。5G基地局の販売も好調だ。英国での不採用が決まるなど基地局でも海外販売は苦戦しそうだが、中国だけで400万局以上、日本の20倍近い需要がある巨大市場である。この中国市場を守れれば、ファーウェイが致命傷を負うことはない。

ファーウェイに続いて米中対立の最前線に引きずり出された動画アプリ「TikTok」の運営企業バイトダンスについても構図は似ている。同社は非上場企業のため収益構造の詳細は明らかでないが、海外事業はまだ投資段階で利益を生み出す状況にない。中国で稼いだ金を注ぎ込み、赤字を垂れ流しながらグローバルに戦ってきた。海外市場から撤退すれば、高収益の中国市場だけが残る。

もちろん、両社にとって制裁が痛手であることは確か。世界トップの企業になるという輝かしい夢からは一歩後退するのだから。だがそれで破綻するわけではないし、中国市場だけでも大企業として生きていける。中国のGDPは世界2位、成長ペースは鈍化したとはいえ、そろそろ日本の3倍に達しようかという巨大経済体だ。米国がどれだけ圧力をかけても、中国との関係を維持する国も多い。経済制裁で降伏させようとしても、どだい無理な話である。

【関連記事】コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)
【関連記事】中国企業は全て共産党のスパイ? 大人気TikTokの不幸なジレンマ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中