最新記事

2020米大統領選

米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想

The Democrats Just Stole the Republicans’ Turf

2020年8月26日(水)17時55分
ダニエル・ベアー(カーネギー国際平和財団上級研究員)

多様性を重視し民主党の副大統領候補に指名されたハリス(左)とバイデン KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<民主党は党大会で姑息な選挙戦略を否定し、アメリカの理念と社会正義を真っ向から訴えた>

前回の大統領選で、なぜ民主党は惨敗したのか。いわゆる激戦州で、伝統的な民主党支持層(工場労働者など)から見放されたのが直接の敗因だったことは間違いない。

では、なぜ彼らは民主党を見限ったのか。よく言われた解釈はこうだ。彼らは経済的にすっかり疲弊していた。そして白人キリスト教徒で異性愛の男性が享受する権利を歴史的にも社会的にも享受できなかった人たちを擁護すべきだという、いわゆる「アイデンティティー政治」にもうんざりしていた。その不満のはけ口を求めて、彼らはあの救い難い詐欺師に一票を投じたのだと。

しかし民主党は8月後半の全国大会で、この種の解釈をきっぱり拒否した。大統領選に勝ちたければ、民主党は「公正さ」へのこだわりを捨てるべきだという誤った主張にくみしなかった。そして特定の層におもねることなく、全てのアメリカ人の立場を代弁する道を選んだ。

およそ一貫性を欠くドナルド・トランプの政治に唯一変わらぬものがあるとしたら、それは白人ナショナリズムと金権政治の融合だ。トランプ政権と議会共和党は、誰かを悪者に仕立てるというポピュリズム(大衆迎合主義)の使い古された手法で国民の目をそらし、ひたすら大企業と超富裕層の目先の利益を追求するために連邦政府を利用してきた。結果として経済的な格差は一段と広がり、この国の未来は暗くなった。

こうした手法の邪悪さは、今さら言うまでもない。しかもトランプと共和党はモラルなき道を進むことを選び、道徳的に堕落している。

民主党はそこを突いた。今度の全国大会では、雇用の創出や農家・中小企業の支援、医療や教育における機会均等といった家計に直結する問題が大きく取り上げられた。正式に民主党の大統領候補となったジョー・バイデンも、コロナ危機とその経済的打撃からの復興を掲げ、「一歩進んだ再建」の必要性を訴えた。

オバマが訴えたこと

一方、外交政策や安全保障の問題に関しては、民主党のメッセージは明確で予想どおりだった。トランプは国内外で統治責任を放棄してきたと非難しつつ、バイデンは自身の長い政治経験と豊富な人脈を強調し、アメリカの繁栄と安全を約束した。

やや意外だったのは、民主党が人種、社会、環境問題における正義の実現を今まで以上に強調したことだ。演説者の誰もがアメリカ社会の分断を指摘し、団結が必要だと訴えていた。

【関連記事】トランプはもう負けている?共和党大会
【関連記事】副大統領候補ハリスが歩み始めた大統領への道 バイデンが期待する次世代政治家の「力」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中