最新記事

2020米大統領選

米大統領選で民主党が掲げたのは、かつて共和党が示した理想

The Democrats Just Stole the Republicans’ Turf

2020年8月26日(水)17時55分
ダニエル・ベアー(カーネギー国際平和財団上級研究員)

しかし、大同団結のために人種や社会的正義に関わる諸問題を後回しにするという妥協策は取らなかった。ビデオを通じてスピーチした各州の代表たちは、人種的・経済的な正義の実現に取り組むことこそアメリカ社会の団結を回復する唯一の道であり、そうしてこそ未来に希望を持てると主張した。

そして人種差別の撤廃や銃規制の必要、気候変動問題の重要性、家庭内の育児や介護労働に正当な報酬が支払われるべきことを再確認し、こうした進歩的な政策課題をアメリカ社会の再生という大きな約束に合体させた。

アメリカ社会の再生。それは壮大な約束だが、優れて保守的な主張でもある。その証拠が、バラク・オバマ前大統領のビデオ演説だ。

憲法発祥の地であるペンシルベニア州フィラデルフィアから中継で演説したオバマは、冒頭で憲法を引き合いに出し、アメリカの建国時の価値観と民主主義の可能性を賛美して弱者を鼓舞する一方、無関心な人々を断罪した。そして分断を終わらせるという公約をいま一度信じてほしいと、最高に愛国的なメッセージを送った。

つまり民主党が選んだのは激戦州の有権者向けのアピールではなく、アメリカの現実を理想に一致させるという約束だった。それは工場を解雇された中西部の白人失業者にも沿岸部の底辺で働く黒人労働者にも、アメリカ建国の道徳的大義と恩恵をもたらすという約束だ。

トランプはアメリカ社会の制度とイメージを大きく損ねた。今こそ建国の精神に立ち返り、誰にとっても公平な国を築こう。そうすれば明るい未来と国際社会の支持を得られる──民主党はそう訴える。

世界から尊敬され、不本意ながらも一目置かれるアメリカは、もともとそんな国だった。独裁者やポピュリストが最も恐れるのは、アメリカが民主的な諸制度を尊重し、伝統的な価値観で困難に立ち向かう姿を見せ、結果として世界中で多元的な民主主義への期待が高まる事態だ。

お株を奪われた共和党

民主党全国大会で最も印象的だったのは、この党が一貫して移民・難民の受け入れ支持を打ち出したことだ。

トランプが自身の強みと考えている公約の柱は移民規制だ。トランプは前回の大統領選で人種差別的な反移民路線を表明して以来、国民の反移民感情を利用してきた。

対して今年の民主党は、移民受け入れの姿勢を鮮明に打ち出した。中小企業の支援や医療問題に関する公約の解説動画にも多くの移民が登場した。大統領候補指名の際も、多くの州で移民2世、3世が予備選の結果を読み上げ、雄弁にスピーチした。真打ちはバイデンの副大統領候補に正式指名されたカマラ・ハリス上院議員で、自分は移民の両親の下に生まれた黒人女性だと語り掛けた。

【関連記事】トランプはもう負けている?共和党大会
【関連記事】副大統領候補ハリスが歩み始めた大統領への道 バイデンが期待する次世代政治家の「力」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国内線、搭乗者6%がリアルID提示なし 2月から

ワールド

情報BOX:トランプ大統領の「平和評議会」、どの国

ビジネス

食料品消費税ゼロを今秋実施、自民減税はいつか分から

ワールド

ローマ教皇も招請、トランプ氏提唱の平和評議会=バチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中