最新記事

南アジア

インド洋の要衝スリランカは、連続爆破テロで親中国に回帰した

ISIS Church Bombs Help China Gain Indian Ocean Ally to America's Chagrin

2020年8月24日(月)19時00分
トム・オコナー

連続爆破テロで標的となったコロンボのカトリック教会(2019年4月21日) Dinuka Liyanawatte‐REUTERS

<昨年の連続爆破テロをきっかけに一度政権を退いた親中派の兄弟政治家が復活。インド洋の覇権をねらう中国の影響力が一段と高まるおそれがある>

2019年4月21日、279人の命を奪ったスリランカ連続爆破テロは、過激派組織IS(イスラム国)に呼応したとみられるグループの犯行だったが、卑劣なテロに対するスリランカの怒りは皮肉にも、インドの南にあるこの島国を戦略的要諦とみなす中国に近いラジャパクサ兄弟が政権に復帰する道を開いた。南アジア一帯における中国の活動を封じ込めようとするアメリカとその同盟国は、親中のスリランカという重荷を背負うはめになったのだ。

ラジャパクサ兄弟のうち兄のマヒンダは大統領として、弟のゴタバヤは国防次官として2005年から10年間、スリランカの政界を支配し、反政府テロ組織タミル・イーラム解放のトラとの戦いに勝利を収めて人気を集めた。2015年の選挙で、隣国インドや欧米との融和を訴える統一国民党(UNP)に敗北し、政権から退いていた。

ところが2019年4月21日、復活祭の日曜日に首都コロンボを始め国内の8カ所で教会や高級ホテルが爆破されるテロが起きると、国民はテロを阻止できなかった一因は政府の怠慢にあると考え、憤慨。燃え上がったナショナリズムは、昨年11月の大統領選挙でゴタバヤ・ラジャパクサを勝利に導いた。そして今月5日投票のスリランカ議会選で、ラジャパクサ兄弟の支持勢力が過半数の票を得て圧勝、政権の基盤は盤石となった。

中国マネーの侵略

ゴタバヤ・ラジャパクサは兄マヒンダを首相に任命し、スリランカ政界の支配を再び確立した。権力がラジャパクサ兄弟に一手に握られたことで、中国との関係はさらに勢いよく拡大するとみられている。

中国はすでに、芸術劇場から戦略的に重要な港湾まで、スリランカのインフラ整備に数十億ドルを注ぎ込んできた。スリランカは、中国の一帯一路構想(BRI)にとってきわめて重要な拠点であり、アジアからインド洋を経てアフリカにいたる中国の海上交通路戦略「真珠の首飾り」の一部になっている。

アメリカは中国のこうした動きは、周辺の国々をだまして海上交通の要諦を支配しようとするものだ、と非難している。

「わが国は一貫して、中国が多くの国に押し付けている略奪的な融資のやり方に懸念を表明してきた。すでに多額の借金とパンデミックが経済に及ぼす影響に苦しんでいる発展途上国は、とどめを刺されるかもしれない」と、米国務省の報道官は本誌に語った。

「中国政府は、透明性と債務の持続可能性の点で国際基準に達しない不透明な国家支援をもちかけ、その合意を通じて融資を行うが、それはたいていの場合、中国企業が考えた経済的価値の疑わしいプロジェクトに資金を提供する形になっている」と、報道官は指摘した。「それによって現地の民間部門の競争力は損なわれ、持続可能性がどこより必要な場所で持続可能性が妨げられている」

<参考記事>スリランカで準独裁体制が復活すれば、海洋覇権を狙う中国を利するだけ
<参考記事>中国に懐柔された二階幹事長──「一帯一路」に呑みこまれる日本

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

任天堂、「スイッチ2」を6月5日に発売

ビジネス

米ADP民間雇用、3月15.5万人増に加速 予想上

ワールド

脅迫で判事を警察保護下に、ルペン氏有罪裁判 大統領

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中