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北朝鮮逮捕・処刑数百人......北朝鮮「幹部養成校」で起きていたこと
2018年の建国70周年記念パレードで敬礼する北朝鮮軍幹部 Danish Siddiqui-REUTERS
<北朝鮮は賄賂なしでは何事もできない社会で、むしろ賄賂は「必要経費」として認識されている部分がある>
13日に行われた北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会第7期第16回政治局会議では、党の最高指導部と言える党中央委員会政治局常務委員会の委員に金徳訓(キム・ドックン)、李炳哲(リ・ビョンチョル)の両氏を選出。内閣総理から金才龍(キム・ジェリョン)氏を解任し、金徳訓氏を新たに任命するなどの重要人事が行われた。
中でも、数百人の幹部が逮捕・処刑されたとされる不正摘発と絡み解任された幹部が復権を果たした点が注目される。
政治局常務委員会はこれまで、金正恩党委員長と崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長(兼国務委員会第1副委員長)、朴奉珠(パク・ポンジュ)党副委員長(兼国務委員会副委員長)の3人体制だったが、今回の人事により5人体制に拡大した。
特に金徳訓氏は、大安(テアン)電機工場支配人、慈江道(チャガンド)人民委員会委員長(県知事に相当)、内閣副総理を歴任した経済通とされるが、現在59歳と、北朝鮮の最高幹部としてはかなり若い。金正恩氏が進めているとされる幹部の若返りは、かなり気合の入った取り組みと見える。
この日の人事で目を引いたのはこれだけではない。2月に党副委員長から解任されていた朴太徳(パク・テドク)氏も、党副委員長と党中央委部長に復帰した。朴氏は今回、政治局委員にも選出されている。
同氏が解任された2月の政治局拡大会議について、同月29日付の朝鮮中央通信は次のように伝えている。
「党中央委員会の幹部と党幹部養成機関の活動家の中で発露した非党的行為と権勢、特権、官僚主義、不正腐敗行為が集中的に批判され、その厳重さと悪結果が辛辣(しんらつ)に分析された」
ここで言われている「党幹部養成機関」は、同党の幹部を養成する高級党学校だと言われている。つまりは不正入学や、ワイロによる地位のやり取りが横行していたということだ。北朝鮮においては入党や党のポストをエサにしたワイロの要求が、あちこちで行われている。
<参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為>
<参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態>
脱北者で、韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏は自身のブログで、不正の摘発は昨年11月に始まり、12月、1月と続いたとしている。第1次摘発では50人が党から除名となり、その後、多額のワイロを受け取っていた人々は逮捕されたり銃殺されたりしたという。そうして処分された幹部の数は最終的に、数百人に達するとチュ・ソンハ氏は見ている。
高位幹部のほとんどが在籍経験のある高級党学校は、有力な人脈と人脈の結節点になる。自らの将来のため、ワイロを使わない手はない。そもそも、北朝鮮はワイロなしでは何事もできない社会だ。むしろワイロは「必要経費」として認識されている部分もある。それは、今回の摘発で対象とならなかった幹部たちも同様であり、その点に目をつぶらなければ、金正恩氏とて国家運営などできないはずなのだ。
件の政治局拡大会議では、朴太徳氏とともに李萬建(リ・マンゴン)党組織指導部長も解任された。党組織指導部は北朝鮮の政務と人事を一手に掌握する最強の官僚組織であり、そのトップのクビが飛んだことは驚きを持って受け止められた。両氏が遠からず、処刑されるものと見た向きも少なくはなかった。
ところが最近になって、李萬建も党中央委員会の(おそらくは組織指導部の)第1副部長として活動していることが確認された。降格させられたものの、なお健在なのである。
これほど大掛かりな不正摘発で責任を問われた幹部2人が、こんなに早く復権するのも意外である。もしかしたら今回の摘発は、金正恩氏がある特定の有力人脈を除去することを意図したもので、李・朴両氏の解任は、事態を素早く収拾するための「方便」だったのではないだろうか。仮にそうだとして、どのような有力人脈が標的になり得たかについては、機会を変えて考察してみたい。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。