最新記事

民族主義

インドネシア、パプア人活動家が刑期終え釈放 さらなる運動継続を誓う

2020年8月18日(火)19時44分
大塚智彦(PanAsiaNews)

釈放されたアグス氏は今後も運動を継続する強い意志を表明した Nayak Papua / YouTube

<禁固17年を求刑された被告が、実質2カ月で刑期を終えられたウラ事情とは?>

インドネシア・カリマンタン島のバリクパパンにある刑務所から8月12日、パプア人の人権・独立活動家のアグス・コサイ氏が国家反逆罪による禁固11カ月の刑期を終えて釈放された。同様の罪で服役していた独立運動活動家のブフタル・タブニ氏ら6人も7、8月に相次いで釈放されており、これで共に裁判を受けていたパプア人活動家と学生の7人は12日のアグス氏を最後に全員が刑期を終えて釈放された。

アグス氏ら7人は2019年にパプア州、西パプア州で発生した反政府抵抗運動を組織・指導したことで国家反逆罪に問われ、同年末までに相次いで逮捕された。公判はパプア地方を遠く離れたバリクパパンの裁判所で行われ、2020年6月17日の判決公判で刑が確定し、現地の刑務所で服役していた。

求刑17年が禁固11カ月の異例判決

このパプア人7人に対する裁判は異例の展開をたどり、インドネシアだけでなく、国際的な人権団体などからも大きな注目を浴びていた。

異例の展開はまず「公判維持のためという治安上の理由」(司法当局)で逮捕されたパプア地方から約2400キロも西に離れたバリクパパンの裁判所で公判がはじめられたこと。

さらに検察側の7人への求刑が禁固5年から最大で禁固17年という長期刑だったのに対し、判決公判で裁判官は「禁固10カ月から11カ月」という検察側の求刑を大幅に下回る実刑判決を下したことである。

こうした異例の展開の背景には、治安上の理由を盾に遠隔地で厳罰を求める治安当局と、新型コロナウイルス対策に全力を挙げている最中に独立運動など他の深刻な問題を抱えたくないというジョコ・ウィドド政権の思惑などの交錯があったと指摘されている。

7人のパプア人はそれぞれ禁固10カ月から11カ月の判決に未決拘留期間を算入した結果、逮捕時期の違いから7月から順次、刑期を満了して釈放された。著名な独立解放組織の指導者で検察側が最も重い禁固17年を求刑していたブフタル・タブニ氏も禁固11カ月を終えて8月の第1週に釈放され、アグス氏が最後の1人となっていた。(関連記事:「インドネシア、国家反逆容疑パプア人に禁固11カ月の判決 求刑17年がなぜ?」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ外相「黒海合意は世界の食糧安保のため」、停戦楽観

ワールド

ロシア・ウクライナ、黒海・エネ停戦で合意 ロ「制裁

ビジネス

海外動向など「不確実性高い」、物価に上下のリスク=

ビジネス

企業向けサービス価格、2月は3%上昇 人件費などコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 9
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中