最新記事

先進医療

消化器で勝手にアルコールが生成され酩酊する奇病に効いた「糞便移植」とは?

Man Got Drunk on Carbs That His Stomach Turned Into Alcohol

2020年8月18日(火)16時25分
カシュミラ・ガンダー

パスタを食べただけで酩酊状態に?悪さをする腸内細菌は丸ごと変えてしまう手もある jakubzak/iStock

<パンやパスタを食べただけでひどく酒に酔ったような感覚を覚えると訴える男性に糞便移植を行ったところ症状がなくなったという>

パスタやパンなど炭水化物を多く含むものを食べると、酒に酔ったようになる――こんな珍しい疾患を抱える男性に糞便移植を行ったところ、治療効果が認められたという。

米国内科学会の医学雑誌「内科紀要」に発表された論文によれば、ベルギー出身の47歳の男性(氏名非公表)は、酒を飲んだわけでもないのにひどく酔ったようになると医師に訴えた。症状は病院を訪れる2カ月前、抗生物質を服用するようになってから始まったという。

医師たちは、男性に幾つもの検査を実施。消去法から、男性がいわゆる「自動醸造症候群(または腸発酵症候群)」ではないかと診断した。炭水化物を摂取すると、消化器系にいる菌やバクテリアの作用でアルコールが生成される症状だ。治療法としては、高タンパク・低炭水化物の食事で腸内の糖がアルコールに変換されるのを阻止する方法などがある。

しかし男性に低炭水化物の食事法と抗真菌薬を処方した後も、特定の食べ物を摂取した後に酒に酔った感覚を覚える症状は続いた。男性は医師たちに、妻からは酒臭いと言われ、警察の検問にも引っかかって運転免許証を失った。

腸内細菌のバランスがカギ?

そこで医師団は、糞便移植を行うことにした。腸内細菌のバランスが狂った人の胃腸管に、健康な人の糞便を移植する治療法だ。男性の娘(22)がドナーになることに同意した。

この処置を行った後、酒に酔ったような症状は収まり、移植から34カ月後も再発はしなかった。

論文の共著者であるベルギーのゲント大学のダニー・デルーズ教授はメールで本誌の取材に応じ、男性には、パンやパスタ、じゃがいもなどの炭水化物を摂取した後に酒に酔ったような感覚を覚える症状があったと述べた。

「自動醸造症候群に関して、糞便移植が功を奏したことが明らかにされたのは(我々の知る限りでは)これが初めてだ」

デルーズは、一般に自動醸造症候群は菌の異常増殖が原因だと考えられているが、バクテリアがエタノールを生成する場合もあると指摘。今回は移植によって男性の腸内から、エタノールを生成する微生物種、おそらくはバクテリアが取り除かれた可能性があると述べた。

「今後、自動醸造症候群の患者に対しては糞便移植も試してみるべきだ」とデルーズは語った。臨床試験の機会を設けるのが理想だが、この疾患がきわめて珍しいものであることを考えると、人間での臨床試験を行うのは無理だろう」

<参考記事>他人の便で病気を治す糞便移植、ただし移植する便には気を付けて──アメリカで1人死亡
<参考記事>「うんちカプセル」のすご過ぎる効果

【話題の記事】
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
異例の猛暑でドイツの過激な「ヌーディズム」が全開
台湾のビキニ・ハイカー、山で凍死
中国は「第三次大戦を準備している」

20200825issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月25日号(8月18日発売)は「コロナストレス 長期化への処方箋」特集。仕事・育児・学習・睡眠......。コロナ禍の長期化で拡大するメンタルヘルス危機。世界と日本の処方箋は? 日本独自のコロナ鬱も取り上げる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシア第1四半期GDP速報値、前年比+4.4%

ワールド

米連邦高裁、トランプ政権に司法との対立回避を呼びか

ビジネス

独企業、3割が今年の人員削減を予定=経済研究所調査

ビジネス

国内債券、超長期中心に3000億円増 利上げ1―2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中