最新記事

教育

日本は事実上の「学生ローン」を貸与型の「奨学金」と呼ぶのをやめるべき

2020年8月5日(水)13時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

返済ができずに奨学金破産に陥る人もいる takasuu/iStock.

<国際統計では給付型「スカラシップ」と貸与型「学生ローン」は明確に分けられているが、日本では両方とも「奨学金」と呼ぶことで誤解を生んでいる>

2019年春の大学入学者は63万人。同世代の半分が大学に行く時代だが、これだけの若者を受け入れる大学は、いわゆる入試難易度によって階層化されている。進学希望者のほぼ全員が入学できる大学全入時代に伴う諸問題は、こうした階層構造の下の方の大学に集約(凝縮)されている。

筆者は入試難易度が「中の下~下」の私大で10年間教えたが、このレベルの私大だと「ひとまず大学を出ておいたらどうか」と背中を押され、それほど勉強しなくても入れるからと、何となく入ってきた学生が大半だ。家計に余裕のない学生が多く、「学費が高い」という声をよく聞いた。

長時間のアルバイトをし、なおかつ奨学金もフルに借りて必死で学費を賄っている学生も少なくない。親には全く頼れないと、1種奨学金(月4万円)と2種奨学金のマックス(12万円)をダブルで借りている学生もいた。4年間の借入総額は768万円。今の稼ぎがどれほどかは知らないが、月に3~4万円を辛い思いをして返しているのだろう。こうした返済ができず、奨学金破産に陥る人もいる。

周知のことだが日本の奨学金は名ばかりで、実質は返済義務のあるローンだ。しかし学生の間では必ずしも周知されておらず、「奨学金って返すんですか? 全部親が手続きしたんで知りませんでした」と、真顔で驚く学生に出会ったことがある。申請書類には借金である旨が明記されているが、手続きを親任せにしてそれを目にしない学生もいるようだ。

国際統計は正直

それならば奨学金などと名乗るのは止め、正直に「学生ローン」と名乗ったらどうか。これなら安易な気持ちで利用する家庭も減る。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど、国のすることではない。

ちなみに国際統計は正直だ。やや古いが、2013年のOECDの教育白書に、高等教育への公的支援支出額の内訳が出ている。どの国を見ても、大学等の教育機関に直に配る助成金が多くを占める。日本の場合、全体の70.8%がそれにあたる。残りの3割が家計への支援金ということになるが、その中身をみると面白い。<表1>は主要国のデータだ。

data200805-chart01.png

どの国でも、教育機関へのダイレクトな助成金が多くを占める。その他というのは、教育支援を行う民間団体への助成金で、イギリスではこのカテゴリーのシェアが大きい。

水色のマークをつけた2つが、学生がいる家庭への支援ということになる。奨学金(Scholarships)と学生ローン(Student loans)だ。

<関連記事:少子化で子どもは減っているのに、クラスは相変わらず「密」な日本の学校

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中