アメリカも対中戦争を考えていない?──ポンペオ演説とエスパー演説のギャップ
だからトランプはエスパーを何度か更迭しようとしたことがある。マティス元国防長官を更迭したばかりで、またもや国防長官を更迭したのでは、軍の権威を傷つけるだけでなく大統領選にも悪影響をもたらすだろう。だから、トランプとしては我慢しているにちがいないが、エスパーが「年内に」という言葉を使ったことは興味深い。
なぜなら、その時には「トランプは落選しているだろうから」という計算が容易に見えてくるからだ。エスパーは11月の大統領選挙でトランプが落選するのを見込んでいるとしか思えない。
そのような状況にありながら、いくらポンペオが勇ましい演説をしたからと言って、「すわ、一大事!米中戦争か!」と喜ぶのは早い。
たとえエスパーの訪中が「米中両軍の意思疎通の枠組みの構築」などと弁明したところで、これはポンペオ演説の精神とはベクトルが真逆だからだ。
どう考えても一致団結して「中国に立ち向かう」という姿勢が感ぜられない。
あるいはひょっとして、トランプがいつものように「習主席とは友人だ」を言わないでポンペオに習近平の名指し批判をさせておいて、一方ではエスパーに、習近平がキャッチできそうな方法を選んで、わざわざイギリスのシンクタンクで「中国へのオベンチャラ」を言わせているのだとすれば、トランプも大したものだ。
いつも直情的なトランプにそのような「芸」ができるとすれば、アメリカに望みをつなげたい。
そうでなかったとすれば、要するにアメリカも戦争をするつもりはないことを、エスパーが露呈しただけになる。
そのどちらなのか、ボルトンに次ぐ「暴露本」が出るまで待つとしようか。
なお中国は、7月28日のコラム「米中戦争を避けるため中国は成都総領事館を選んだ」に書いたように、中国の方から戦争を仕掛けるつもりはない。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。