最新記事

米中対立

アメリカも対中戦争を考えていない?──ポンペオ演説とエスパー演説のギャップ

2020年7月29日(水)19時45分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

米国務長官が演説 歴代対中戦略「失敗」と称し転換強調 Ashley Landis/Pool via REUTERS

ポンペオ国務長官の激しい対中強硬演説と同時に閉鎖したヒューストン総領事館はトランプ大統領の大票田テキサス州にある。同日、米軍を司るエスパー国防長官は「年内に訪中したい」と演説している。その整合性を考察する。

名指しで習近平を批判したポンペオ演説

ポンペオ国務長官は7月23日、カリフォルニア州のニクソン大統領記念図書館で「共産主義の中国と自由世界の未来」と題した演説を行った。

「中国が繁栄すれば民主主義に転換するとの期待の下で続けていた従来の関与政策は失敗だった」と述べたが、そもそも「関与政策」が中国の民主主義を招くと考えたこと自体、甘すぎる。中国共産党の何たるかを知らなかった証拠だ。

今になってようやくニクソンの「中国が変わらない限り、世界は安全にはならない」という言葉を引用し、自由主義の同盟・有志国が立ち上がって中国の姿勢を変えるときだとした。

また「中国へ投資することは中国共産党による人権侵害を支援することになる」と産業界に対して警告し、社会的な正義を守るために行動しようと呼び掛けている。

何よりも注目すべきは、「(中国共産党の)習総書記は破綻した全体主義のイデオロギーの信奉者だ」と、習近平を名指しで非難したことだ。さらに「中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない」とも述べている。

トランプ大統領でさえ、どんなに中国を悪しざまに言っても最後には習近平個人に関して「もっとも、President Xi(習主席)は私の友人だが・・・」と必ず付け加えていた。その意味では初めての名指し批判となった。

今回のポンペオ演説は、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官、バー司法長官らに続くもので、この4人を海外では「反共四騎士(Trump's four horsemen)」と称している。

閉鎖したヒューストン総領事館はトランプの大票田テキサス州

ほぼ時を同じくして(7月21日に)閉鎖命令を出したヒューストンの中国総領事館の所在地が「テキサス州」であったことに注目しないわけにはいかない。

テキサス州は何と言ってもトランプの大票田!

しかしここのところ、その大切なテキサス州にヒスパニック系が押し寄せ、2016年の大統領選挙以降だけでも100万人近いヒスパニック系の人口が増加しているという。ヒスパニック系の大半は民主党支持だ。おそらく今年11月の大統領選挙ではバイデンにその票が行くだろうと予測されている。

そうでなくとも世論調査ではトランプは1ポイントほどバイデンに負けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中