新型コロナ、ワクチン開発の苦境──ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?
そして、いま注目を集めているのが、ウイルスの設計図ともいえる遺伝情報を使う「遺伝子ワクチン」だ。ウイルス本体ではなく、ウイルスの遺伝子を使ってワクチンを作るため、理論上、安全性への懸念は少ないとされる。
また、開発されたあかつきには、ウイルス遺伝子を組み込んだプラスミドと呼ばれるDNA分子を、大腸菌などを使ってタンクで培養でき、ワクチンの大量生産が可能となる。このため、従来の鶏卵を使った製造法に比べて、短期間、低コストで実用化が図られる。ただし、これまでに、遺伝子ワクチンが人で実用化された事例はない。
いずれのワクチンにしても、発症のリスクを減らすもしくは無くす一方で、免疫を獲得できることが条件となる。このために、ワクチン候補について臨床試験で有効性と安全性を確認することが必要となる。
ワクチンの有効性は発症予防効果でみる
では、有効性の確認は、どのように行われるのだろうか。臨床試験のガイドラインによると、基本的には、「発症予防効果」をみることが望ましいとされている。発症予防効果は、ワクチンを打たなかった場合と比べて、どれだけ発症する患者を減らせたかという指標で表される。
たとえば、ワクチンとプラセボをそれぞれ100人ずつ被験者に投与したとしよう。しばらくして、ワクチンを投与された人からは20人、プラセボを投与された人からは50人が発症したとする。
この場合、ワクチンの効果により30人(=50人-20人)の発症が予防できたとみられる。したがって、発症予防効果は、60%(=30人÷50人)となる。
感染症の種類によって、発症予防効果は異なる。たとえば、予防接種の効果が一生涯続くとされる、はしかの場合、発症予防効果は90%以上との研究報告がある。
一方、季節性インフルエンザでは予防接種を受けても、その効果は数か月間に限られる。ある研究によれば、発症予防効果は65歳以上の健常な高齢者について約45%であったと報告されている。
このように、ワクチンの効果は100%ではない。たとえワクチンを打っても、感染や発症をしないとは言い切れないことになる。
しかし、多くの人がワクチンを打てば、感染者の数を減らすことができ、その結果、感染拡大が抑えられる。つまり、ワクチンによって「集団免疫」が働く効果がある。この集団免疫を効かせるために、早期のワクチン開発が望まれるわけだ。
「副反応」リスクが大きければ、開発はストップ
安全性の評価は、投与されたすべての被験者に対して「有害事象」を収集するという形で行われる。
ワクチンの場合、体外の物質が化学作用することよりも、体内で免疫学的に起こる反応が問題となることが多い。そこで、治療薬の「副作用」とは区別して、「副反応」という用語が使われる。