最新記事

米中対立

米中戦争を避けるため中国は成都総領事館を選んだ

2020年7月28日(火)13時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

上海と広州のアメリカ総領事館を閉鎖すると、今度は中国自身にとって経済活動などで不利となる。

香港にあるアメリカ総領事館を閉鎖するのが、アメリカに最も大きなダメージを与えるのだが、ここを閉鎖すると、まさに「戦争」へと突入しかねないほどの強烈なインパクトがある。

となると、残りは成都しかない。ほぼユニーク・ソリューションだ。

もちろん成都を選んだ理由の一つにチベットやウイグル自治区をカバーしているからということも考えられるが、むしろ香港や上海あるいは広州を選ばなかったことに注目した方が、事の本質が見えるだろう。

7月26日、米軍機P-8Aが福建省沿岸76Kmを偵察

7月26日の中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」が「また挑発か?米軍機が今日東海に現れ、中国の海岸との距離76キロにまで接近した」と報じた。

それによれば「最近、米軍機は頻繁に中国の沿岸海域の上空に飛来しているが、7月26日には米海軍に属するP-8A哨戒機が東海(東シナ海)に現れ、福建省の海岸からわずか約76キロの至近距離を飛行した」とのこと。

上海市から見ると、わずか170キロの距離まで近づいたことになる。

また同日の少し早めの時間帯には、米海軍のP-8A哨戒機が上海沖の東シナ海(約156キロメートル沖)上空に出現し、上海沖約185キロの同海域では、米海軍駆逐艦ラファエル・ペラルタも目撃されているとも環球網は報じている。これは前掲のP-8Aに関する補足説明だと思われる。

いずれにせよ、最近の一連の米軍艦や航空機による近距離偵察行動について、中国政府国防部の呉謙報道官は6月の定例記者会見で、「現在、東シナ海と南シナ海の状況は、地域諸国の共同努力により、概ね安定している」と前置きした上で、「アメリカは、いわゆる『航行の自由』を口実に、治外法権国家として東シナ海や南シナ海に軍艦や航空機を派遣して挑発し、中国に接近して高周波偵察を行ったり、標的性の高い軍事演習を行ったりして、地域各国の主権と安全保障上の利益を著しく損ない、地域の平和と安定を著しく損なっている」とアメリカを非難している。

このように米中は、東シナ海や南シナ海での中国の軍事的覇権強化をめぐって、このコロナ感染で大変な時期においても緊迫した状況にある。

中国の軍事力ではアメリカに勝てない

だからこそ、中国政府が成都にあるアメリカ総領事館を選んだのは、アメリカを過度に刺激したくはないからだと考えるのが妥当だろう。

現在の軍事力では、中国はアメリカに勝てない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中