アメリカ猛攻──ファーウェイ排除は成功するか?
頼みとするTSMCがファーウェイを切り捨てるとなると、さすがのファーウェイも大きなダメージを受けるだろう。
そこで中国政府は中国のファウンドリ最大手であるSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation =中芯国際集成電路製造)に重点を置き、TSMCを代替させるつもりだ。SMICの2020年における調達額はグループ全体で1兆円規模にのぼる。
7月16日、SMICは上海証券取引所の中国版ナスダックとされる科創板(科学技術イノベーション・ボード=STAR)市場に上場し、246%高で取引を開始した。
ただ、SMICの技術はTSMCの2世代ほどは遅れており、どんなに中国政府が投資しても限界があるとも言えるが、しかし上場後に順調に資金調達が進めば、技術革新への好循環が生まれ、TSMCを埋め合わせる可能性がゼロではないかもしれない(詳細は8月初旬出版の『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』)。
台湾としては、ひょっとしたらトランプ政権が「一つの中国」を否定して、「中華民国」を復活させてくれるかもしれないという、淡い夢を描いている。
そうはさせまじと、中国は第一列島線を固める尖閣諸島への侵犯を繰り返している。
万一にも台湾が独立を叫ぶようなことがあったら、2005年に全人代で制定した「反国家分裂法」が火を噴く。中国がそのようなことをすればアメリカが黙っていない。
軍事力においてアメリカにはとても勝てない中国はしかし、コロナで打撃を受けている米国の国力や、白人警官による黒人男性殺害に対するトランプの言動に激怒したアメリカ軍部がトランプに反旗を翻している現状を睨みながら行動しているのである。
ファーウェイを巡るヨーロッパの動きから、日本の足元である東アジアの風雲が見えてくることに注目したい。
なお、つい先日発表されたワシントンの「戦略国際問題研究所」による調査報告書「日本における中国の影響力」には、「日本でのコロナウイルス感染拡大は安倍政権が習近平国賓来訪の計画のために中国側に忖度をしたことが最大要因になった」という結論を導く内容が盛り込まれているそうだ。
日本の一国民として、この事実からも目を背けてはならないだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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