インドネシア軍、パプア山間部で親子を殺害 武装組織メンバーと弁明するも真相は?
「2人は武装組織の一員」と軍は殺害正当化
7月21日に地元ンドゥガ県を管轄する陸軍司令部のグスティ・ニョマン・スリアスタフ大佐はメディアに対して「殺害された2人は治安当局が以前から武装組織と関係があるとしてマークしていた人物であり、客観的な証拠から武装勢力メンバーであると思慮できる蓋然性もあり、止むを得ない発砲だった」と発砲、殺害は正当な行為だったと説明している。
軍の発表によると、殺害された2人の所持品からは回転式拳銃や斧、鉈などの武器類とともに現金約950万ルピア(約7万5000円)、携帯電話が押収された。この携帯電話は約1カ月前に盗まれた陸軍兵士の所持品だったことが製品ナンバーから確認されたとしている。
こうした証拠に加えて以前から武装組織メンバーとしてマークしていた人物であることなどを射殺正当化の理由としているが、検問所の中で尋問中に一体何があり、どうして射殺にいたったかなどの詳しい経緯については軍も明らかにしていない。
ンドゥガ県で続く衝突で住民は避難
今回事件のあった山間部のンドゥガ県は2018年12月にジョコ・ウィドド大統領の看板政策であるインフラ整備の一環として建設中だった「トランス・パプア道路」の工事現場で作業員が武装勢力に襲撃されて19人が死亡する事件以来、治安部隊と武装勢力による衝突が続いている地区だ。
2019年3月には同県イギ地区で移動警戒中の陸軍部隊25人が待ち伏せ攻撃され、銃撃戦の末兵士3人、武装勢力側7人が死亡する事件も起きている。
この時の衝突などを契機に治安当局は同県に600人の要員を増派して、武装組織メンバーの捜索、掃討作戦を続けている(関連記事:「インドネシア、パプアの戦闘激化で国軍兵士600人増派 治安維持に躍起」)。現地は外国報道陣だけでなくインドネシア関係者の立ち入りも「安全上の理由」として厳しく制限され、武装勢力の情報交換や連絡阻止と称して携帯電話やインターネットなどの通信制限が頻繁に当局によって実施され、現地の情勢が外部に伝わりにくい状況が続いている。
軍や警察など治安当局の一方的な発表、情報をマスコミなどが独自に確認、検証する手段が極めて限定されているため、治安当局者による不当逮捕や暴力・殺害行為を含めた人権侵害が深刻化しているとの情報が以前から根強くあることも事実だ。
治安部隊が増派されたンドゥガ県では2018年12月以降治安状況が極端に悪化したため、多くの住民が隣接のジャヤウィジャヤ県に避難した。しかし、パロ、コンガロ、そしてセル氏親子の出身地であるヤルなどの村の住民は避難経路の安全が確保されずに危険なため、山間部のジャングルに身を寄せ、そこでの生活を余儀なくされていたという。
こうしたジャングルでの避難生活は十分な食料調達や病気治療が難しいことからパプア人の多数が避難生活中に命を落としているとの報告がある。
パプアでの人権問題を扱う団体などの報告によると、道路建設作業員が多数殺害された2018年12月から2019年7月までの間に飢えや病気で死亡したパプア人避難民は182人に上るという。その一方で地元政府などは同期間の死亡者は子供23人を含む53人であるとし、数字には大きな違いが生じている。
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