コロナが一変させたワクチン開発のスピード感 早期実用化のためにプロセスを効率化
安全性と有効性の検証を犠牲にせずにプロセスを加速できるか ARND WIEGMANN-REUTERS
<新型コロナウイルスのワクチン早期実用化を加速させる試みが、ワクチン開発の在り方を根底から変える>
死者の数を最小限に抑えつつ新型コロナウイルス危機を収束させるためには、安全で有効なワクチンが欠かせない。各国政府や国際機関がワクチン開発に力を注いでいるのは、そのためだ。
現在、世界で100を超す研究チームが新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組んでいて、既に十数種類以上のワクチン候補が臨床試験の段階に進んでいる。専門家の間では、10~16カ月以内にワクチンが承認されると予測している人が多い。
しかし、先行きは不透明だ。ワクチンが実用化されるまでには、多くのことが順調に進まなくてはならない。
ワクチン開発のプロセスでは、動物実験を経た後、人間を対象にした臨床試験で安全性と有効性が検証される。臨床試験は、フェーズ1(たいていごく少数の人が対象)、フェーズ2(数十人から数百人)、フェーズ3(数千人)へと、次第にワクチンを投与する人の数を増やしていく。
臨床試験で安全性と有効性の基準を満たせば、米食品医薬品局(FDA)など、各国の監督官庁により承認される。ワクチンの予防接種が始まっても、安全性と有効性の評価作業は続く(フェーズ4)。
新型コロナウイルスのワクチンを早期に実用化することを目的に、このプロセスを加速させる試みがなされている。
そのような取り組みの多くは、複数のステップを並行して行うことで時間短縮を目指す。臨床試験のフェーズ1とフェーズ2を同時に行ったり、(既に承認されているものに似た物質に関しては)動物実験とヒトの実験を同時並行で実施したりしている。
将来のワクチン開発のモデルに
注目すべきなのは、これらの試みは、ワクチン開発の重要なステップを割愛していないことだ。あくまでプロセスを効率化することにより、スピードアップを実現しようとしているのである。
いつか新型コロナウイルスのワクチンが開発されれば、その過程で得た教訓により、ワクチン開発の在り方が大きく変わりそうだ。
革新的な臨床試験の設計や、動物とヒトの実験を並行して実施する手法は、今後のワクチン開発でも採用されるだろう。ウイルスの遺伝情報を使うmRNAワクチンなど、新しいタイプのワクチンは、これから発生する新しい感染症のワクチン開発にも応用される可能性が高い。
今回の危機では、ウイルスの遺伝子配列情報が早い時期に公開・共有された。この経験は、将来のワクチン開発のモデルになるだろう。
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