最新記事

ドイツ

「死に体」のはずのメルケルが欧州のリーダーに返り咲き

Angela Merkel Is Back

2020年7月15日(水)17時20分
スダ・ダビド・ウィルプ(ジャーマン・マーシャルファンド・ベルリン事務所副所長)、エリザベス・ウィンター(同プログラムアシスタント)

今や攻めの姿勢を取るメルケルは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするとの野心的な目標を定める欧州委員会の「欧州グリーンディール」も支持している。

外国のテクノロジー大手に依存せず、欧州のデジタル主権を確立しようという動きも、メルケルとドイツが再び牽引役の座に就くチャンスになる。ドイツ政府は2014年、3カ年計画「デジタル・アジェンダ」を発表。ブロードバンド通信網の拡大やIT(情報技術)部門の教育機会、情報セキュリティーを目標に掲げた。しかしデジタル公共サービスは欧州内の他国に大きく後れを取っており、2019年のデータによれば、EU加盟国28カ国(当時)のうち21位にとどまる。新技術部門に代表的な独企業は存在せず、ブロードバンド整備も進まない。

いまだ企業や民間団体の一部が4Gサービスの改善を待っている状況ではあるものの、ドイツ政府はセキュリティーを犠牲にすることなく競争力の高い第5世代(5G)サービスをいかに展開するかを既に検討し始めている。

こうした姿勢は、デジタル主権を求めるEUの動きと結び付け、電子政府プロジェクトやサイバーセキュリティーに拡大適用することもできる。候補の1つが、アメリカや中国のテクノロジー企業に依存しないプラットフォームの構築を目指す、独仏主導の欧州クラウドデータインフラ構想「ガイアX」だ。

EUの仲間に歩み寄る

「ジャーマンパワー」に対する近隣国の懸念を軽減しようと、ドイツはEUの枠組み内で常に注意深く行動してきた。

過去10年間にEUが直面した債務危機や移民・難民問題で、ドイツは指導役になる機会を手にした。ユーロ圏を救う役目を自覚し、難民流入の際のメルケルの人道的対応は広く称賛されたものの、その手法は分断を招き、ポピュリスト政党台頭の要因になった。

緊縮策や財政均衡にこだわるドイツの姿勢はほかの加盟国に反発され、移民の受け入れ割当制という主張はハンガリーやポーランドの恨みを買った。だがEU理事会議長国就任に合わせ、ドイツは双方の点で立場を変化させている。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領と共に、メルケルは債務のプール化を可能にする「コロナ債」プログラムを策定しているが、これは従来、ドイツ政府が忌み嫌っていた手法だ。移民割当制でもほかの加盟国に融和的な態度を示し、今では域外国境の管理改善に焦点を当てている。

【関連記事】もうアメリカにひれ伏さない――ドイツが「新生欧州」の盟主になる時

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月の全国消費者物価、電気補助金などで2カ月連続

ビジネス

欧州新車販売、10月は前年比横ばい EV移行加速=

ビジネス

ドイツ経済、企業倒産と債務リスクが上昇=連銀報告書

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中