最新記事

遺伝子

ミトコンドリアDNAの新たな編集技術が世界で初めて開発される

2020年7月15日(水)16時50分
松岡由希子

ミトコンドリアDNAの新たな編集技術が開発された...... wir0mani-iStock

<サチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学などの研究チームは、ミトコンドリアDNAを編集する新たな手法を開発した......>

細胞内でエネルギーを産生するミトコンドリアは「ミトコンドリアDNA(mtDNA)」と呼ばれる独自のDNAを有する。「CRISPR」は、二重らせんを形成する二本鎖DNAを切断してゲノム配列の任意の場所を削除・置換・挿入することで、細胞核でのDNA編集を早く正確に行うことができる画期的な遺伝子編集技術であるが、CRISPRにおいて不可欠な「ガイドRNA(gRNA)」がミトコンドリア膜を通過できないため、ミトコンドリアDNAの編集に用いることはできない。

「CRISPRやガイドRNAによらない遺伝子編集が可能に」

米マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が共同で運営する研究機関「ブロード研究所」、ワシントン大学らの共同研究チームは、ミトコンドリアDNAを編集する新たな手法を開発し、2020年7月8日、学術雑誌「ネイチャー」でその研究成果を発表した。

まず、ワシントン大学の研究チームは、日和見病原菌の一種「バークホルデリア・セパシア」が生成する毒性タンパク質に着目した。「DddA」と呼ばれるこの毒性タンパク質は、二本鎖DNAのシトシンをウラシルに変化させて、他の細菌を殺す。研究チームは「二本鎖DNAに作用するDddAの特性を転用することで、CRISPRやガイドRNAによらない遺伝子編集が可能となるのではないか」との仮説を立てた。

ブロード研究所の研究チームは、ワシントン大学の研究チームが示した仮説をもとに、細胞を損傷することなくDNAを編集できるようにするため、DddAの毒性を軽減させる手法を考案。DddAを二分割して不活化させ、これらが組み合わさったときにのみDNAを編集できるようにした。

二分割されたDddAが組み合ってDNAに結合すると、シトシンがウラシルに変化し、最終的にはDNAの塩基配列を編集して「シトシン(C)」と「グアニン(G)」の対を「アデニン(A)」と「チミン(T)」の対に変換する仕組みだ。研究チームでは、この手法を「DdCBE (DddA派生シトシンベース編集ツール)」と名付けている。ヒト細胞のミトコンドリアDNAにある5つの遺伝子を用いて実験したところ、DdCBEによってミトコンドリアDNAの50%で正確に編集できた。

ミトコンドリア以外の遺伝子編集にも応用

DddAを活用したDdCBEは、ミトコンドリアの生物学的、遺伝学的な謎の解明に役立つのはもちろん、ミトコンドリアの異常によって起こる「ミトコンドリア病」などの治療法の研究に道をひらくものとして期待がよせられている。また、ガイドRNAを必要としないDdCBEは、ミトコンドリア以外の遺伝子編集にも応用できるのではないかとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中