最新記事

健康

175万人の遺伝情報を分析、「血中の鉄分値と寿命に関連がある」

2020年7月21日(火)16時40分
松岡由希子

「血中の鉄代謝に関与する遺伝子は、健康な長寿の要因の一部である」 yaom -iStock

<英エジンバラ大学などの研究によると、寿命、健康寿命、長命に関連する10のゲノム座位が特定され、これらの座位は鉄代謝とも関連していることがわかった......>

鉄分はヒトの身体を健康に機能させるために不可欠な栄養素だが、その量が過剰となると、様々な問題を引き起こす。脳の鉄分レベルの変化とアルツハイマー病患者の認知低下に関連があることが明らかとなっているほか、鉄代謝異常による疾患「ヘモクロマトーシス」もその一例だ。

血中の鉄代謝に関与する遺伝子は、健康な長寿の要因

英エジンバラ大学と独マックス・プランク老化生物学研究所(MPI AGE)の共同研究チームは、生物学的老化に関連する「寿命」、「健康寿命」、「長命」の3つの要素に着目し、極めて長寿な6万人を含め、欧州の175万人の遺伝情報を分析した。

2020年7月16日にオープンアクセスジャーナル「ネイチャーコミュニケーションズ」で発表された研究論文では、寿命、健康寿命、長命に関連する10のゲノム座位が特定され、これらの座位は鉄代謝とも関連していることがわかった。

これら10のゲノム座位には、アルツハイマー病発症リスクと関連する「APOE」をはじめ、加齢プロセスやヒトの健康に関与することがすでに明らかとなっているものも含まれる一方、「SLC4A7」や「LINC02513」など、これまでゲノム規模で有意だとみられていなかった5つの座位も新たに確認されている。

さらに研究チームは、統計的手法のひとつ「メンデルランダム化(MR)解析」を用いて、データ分析で観察されたこれらの関連から因果関係を推定し、「血中の鉄代謝に関与する遺伝子は、健康な長寿の要因の一部である」ことを示した。

健康寿命を伸ばすための医薬品の開発を加速させる

一連の研究成果は、加齢性疾患を減らし、健康寿命を伸ばすための医薬品の開発を加速させるものとして期待が寄せられている。たとえば、遺伝的変異が鉄代謝にもたらす影響を模倣した医薬品によって、老化に伴う影響に打ち勝つことができるかもしれない。血中の鉄分値をコントロールすることで老化によるダメージを予防できる可能性もある。

研究論文の責任著者でマックス・プランク老化生物学研究所のヨリス・ディーレン博士は「我々の究極の目標は、老化がどのように制御されているのかを解明し、老化しながらも健康を増進させる方法を見つけることだ。寿命、健康寿命、長命に関連するこれら10のゲノム座位は、今後の研究において有力な候補となるだろう」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中