最新記事

インドネシア

激しい剣幕で閣僚に猛省促す大統領の意図は? 新型コロナ対策後手のインドネシア

2020年6月30日(火)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

全内閣閣僚を前に厳しい口調で語り、猛省を促すジョコ・ウィドド大統領 KOMPASTV / YouTube

<省庁の解体にまで言及した厳しい閣議の映像を公開した大統領にはしたたかな狙いが──>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が新型コロナウイルス感染対策の効果が不十分であり、全員の危機感が欠如していると居並ぶ全内閣閣僚を前に厳しい口調で語り、猛省を促した。

これは大統領官邸で18日に行われた閣議の模様を撮影した約10分の動画で、大統領府が28日に公開、インドネシアの主要メディアが一斉に報じたものだ。新型コロナの感染拡大防止策が思うように機能せず、現在も感染者・死者の増加に歯止めがかからない状況に苛立ちを露わにしたものといえる。

インドネシアの各メディアはジョコ・ウィドド大統領の厳しい口調のスピーチについて「怒れる大統領」「火のような激しい演説」「政府の断固とした方針再確認」などの表現で伝えている。

インドネシアでは3月2日に国内でインドネシア人の感染者が初確認されて以来、新型コロナウイルスの感染は全国34州全てに拡大。感染者・死者ともに東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中最悪の数字を記録している。

ジョコ・ウィドド政権は地方政府などと協力して緊急対応宣言(首都ジャカルタは3月20日から)、さらにレベルアップした「大規模社会制限(PSBB)」(同4月24日から)と次々に感染拡大防止のため各種の社会活動を制限する策を講じてきた。

しかし感染拡大は一向に収まる気配をみせず、感染者は6月に入っても1日平均で1000人ペースで増加。決して「コントロールできている」「第一波をしのいだ」とお世辞にも言える状態ではない状況が続いている。

「特別に異常な事態であるとの認識必要」

公開された閣議の動画では、感染防止のために距離をとって座る全閣僚を前に演壇に進んだジョコ・ウィドド大統領が開口一番「今は特別に異常な事態にあるという認識、空気が欠けている。ここにいる閣僚はインドネシアの2億6000万人の国民に対して責任を負っていることを認識して、全員が同じ危機意識を共有しなければならない」と全閣僚にコロナ対策で危機感をもつよう求めた。

コロナ禍で経済が停滞している状況について数字を挙げて触れたうえで「これ以上の失業者を増やしてはならない」と述べ、さらに「今まで通りの普通の仕事ぶりではいけない、今は特別な状況にあるのだ。仕事の内容とスピードが求められている」と述べた。

全閣僚を見渡すジョコ・ウィドド大統領の視線はいつになく厳しく、右手を何度も振り上げては畳みかける様な口調での語り口は、大統領として感染対策の現状に大きな不満を抱いていることを浮き彫りにした。

そして「現状が続くようであれば、異例の措置を取ることも考えている、省庁の解体や内閣の改造も含まれる。いつもと同じような仕事をしている閣僚には出て行ってもらうこともある」とまで述べて、閣僚の交代による内閣改造や政府機関の解体の可能性にまで言及した。


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染58人を確認 週平均で休業再要請の50人超える
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中