最新記事

中国マスク外交

日本が中国と「経済的距離」を取るのに、今が最適なタイミングである理由

DECOUPLING FROM CHINA

2020年6月25日(木)18時39分
ジョン・リー(米ハドソン研究所上級研究員)

コロナ禍の今は日本が中国離れする絶好の機会?(G20大阪サミット、2019年) KIMIMASA MAYAMAーPOOLーREUTERS

<日本企業にとって中国からのサプライチェーン移転は、米企業が行うより容易だ。本誌「中国マスク外交」特集より>

緊急経済対策の一環として、2435億円を計上し、日本企業が製造業のサプライチェーンを中国から移転させることを促す──安倍政権のこの政策が成功するのかは、まだ分からない。コロナ禍で経済のあらゆる主要分野が影響を受けるなか、なぜそうした方針を進めるのか? サプライチェーンを中国からデカップリング(切り離し)することはうまくいくのか? そして、2019年から始まった中国の対日歩み寄りの動きをなぜ危険にさらすのだろうか?

日本の方針が賢明なのか非生産的なのかはまだ判断できないが、その狙いとタイミングは最適だ。

アメリカを見てみれば、中国からのサプライチェーンの国内回帰促進は、大した効果を上げていない。17年末の法人税減税によって、米企業は国外に積み上げてきた利益を国内に戻すようになり、18年の1年間だけでも約7800億ドルの資金がアメリカに戻った。だがその大部分は、国内のサプライチェーン構築への投資ではなく、自社株購入や配当金の増額に使われた。

20200630issue_cover200.jpg

実際のところ、国際企業は中国の政治上、制度上、法律上のリスクなどずっと前から織り込み済みだ。そうしたリスクも、短期的利益によって相殺されてきた。中国市場に足場を築くには、中国のサプライチェーンを抱えることが欠かせないのだ。

だが日本企業の場合は、今回の政策を好機に思いがけない成果を呼び込めるかもしれない。まず、アメリカより日本のほうが地理的に有利だ。東アジアは製造業の統合地域圏として世界で台頭しつつある。コンピューター、電子機器、電気製品分野で最も顕著で、こうした分野は日本や韓国、ASEAN諸国の輸出額のかなりの部分を占める。日本企業がサプライチェーンを中国から国内へ(あるいは東南アジアへ)移転させても、統合地域圏内にいることは変わらない。この事実は、米企業に比べて移転の決断を容易にする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナの地雷と不発弾の除去に一段の支援を呼びか

ビジネス

アマゾンの週5日出社義務は妥当=AWSトップ

ワールド

中国、過剰生産で経済・地政学的影響力を行使 米が警

ワールド

ウクライナ、NATO加盟交渉開始を要請 EUに「勝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
2024年10月22日号(10/16発売)

米大統領選を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」。最後に勝つのはハリスか? トランプか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 2
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くその正体
  • 3
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせる作戦か、戦争でタガが外れたのか
  • 4
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 5
    ナチス・ドイツの遺物が屋根裏部屋に眠っていた...そ…
  • 6
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 7
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    【クイズ】シュークリームの「シュー」はどういう意…
  • 10
    谷間が丸見え...マライア・キャリー、ゴルフ中の「グ…
  • 1
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思…
  • 5
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 8
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリ…
  • 9
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 8
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中