最新記事

南太平洋

中国の太平洋進出の行方を握る小さな島国の選挙

China Could Be in Reach of Hawaii After Monday’s Election in Kiribati

2020年6月22日(月)19時30分
クリストファー・パラ

野党の大統領候補ベリナは、フォーリン・ポリシー誌のインタビューに対し、マーマウが台湾から中国に乗り換えると発表した時、議員数人が抗議した。台湾は人気があるので、乗り換えによって議席を失うことを彼らは恐れたという。その時マーマウは、「選挙資金は中国から出るから心配するな」と言った。「ショックだった」と、ベリナは言う。
政府関係者は中国の援助は数億ドル規模で、全てが贈与であって融資ではないので、返済する必要はないと言っている。返済が滞り、せっかく建設したインフラを中国に奪われてしまう「債務の罠」に陥る危険はないというのだが、詳細は明らかにされていない。マーマウは初めて北京を訪問した時、「一帯一路」に関する覚書に署名している。当時はまだ与党幹部だったベリナによれば、その際に得た資金は全て融資だったという。

手玉に取られずに済むのか

22日の選挙の最大の焦点は中国だ。果たして中国は、野党が主張する通り、カネと中国から連れてきた労働者でキリバスを圧倒し、自分たちのための巨大インフラを作ろうとするのだろうか。彼らと共に、新型コロナウイルスも初めて持ち込まれるのか。戦略的に重要なクリスマス島を奪おうとするのだろうか。ソロモン諸島が中国と国交回復してわずか数日後、ツラギ島を丸ごとリースしようとしたように。

あるいは、マーマウ政権が断固とした姿勢を貫いて、近くのハワイからクリスマス島まで旅行者を引き寄せるための観光インフラ建設などに限った援助、それも贈与以外は受け取らず、国を豊かにすることができるだろうか。有権者はどちらを信じるのか。

国連大使兼駐米大使のシトによれば、アメリカはキリバスに援助はしていないが、文化的にも歴史的にも人気がある。1943年に日本の占領から解放したのもアメリカだ。約40年前、イギリスの植民地だったキリバスが独立し、アメリカと友好条約を結んだ時から、アメリカ政府の同意なしには、いかなる国もキリバスに軍事施設を作ってはならないことになっている。しかしこの条約も、6カ月前の通知で破棄できるという。

キリバスの選挙は戦略的にも極めて重要だ。中国が太平洋で支配を拡大してアメリカとその同盟国に取って代わるのか否か、この小さな島国次第で決まってしまうことにもありうる。

From Foreign Policy Magazine

【話題の記事】
巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
地下5キロメートルで「巨大な生物圏」が発見される

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中