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「他国に厳しく自国に甘い」人権軽視大国アメリカよ、今こそ変わるとき

America the Unexceptional

2020年6月16日(火)18時30分
デービッド・ケイ(カリフォルニア大学アーバイン校法学部教授)

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取り締まる側のサングラスに映ったデモ参加者(ワシントン) TOM BRENNER-REUTERS

以後数十年にわたり、アメリカは人権擁護に抵抗してきた。国際的な人権法はいつも曖昧で政治色が強いため、各国政府が一様に施行するのは無理だという主張も聞こえた。

右派に至っては、人権条約はグローバルなエリート層がアメリカの主権侵害を狙ったものだと批判した。2006年に国連で採択された障害者権利条約の批准に、右派が反対した理由もこれだった。

アメリカが他国に厳しく自国に甘いのは、人権法に関してだけではない。国際刑事裁判所(ICC)を設立するための条約(ローマ規程)の批准を渋るのも、国際司法裁判所(ICJ)で国家間の争いに決着をつけることに抵抗するのも、同じ理由からだ。

アメリカでは、人種差別が人権問題に取り組む際の足かせとなった。一方でこの姿勢は、人権問題は「内政問題」だとして外部の介入に抵抗する世界中の暴君を勢いづかせてもきた。

いま全米に広がる抗議デモは、黒人に対する警察の暴力について誠実な対応を要求し、警察活動や教育をはじめとする全ての社会・統治構造での人種差別を終わらせるよう求めている。この訴えを、法律や政策、実務の具体的な変化につなげなくてはならない。

ただし、言葉にするだけでは不十分だ。アメリカの法律と訴訟手段は黒人の命を脅かし、不公正で不正義な社会を生んできた。

現行の制度では虐待が行われても、連邦法ではその多くの責任を事実上追及できない。警察官が市民を殺しても、免責特権で守られる。自警団員が殺人に及んでも、「スタンド・ユア・グラウンド法(正当防衛法)」によって免責される。大統領も弁護士も拷問を承認する国で、国民は罪を省みる必要がなかった。

変化の必要性と可能性

人権法は、人種差別と免責特権を可能にする社会的基盤を解体する上で重要な役割を果たせる。現在のデモは、自国の人権問題を直視し、制度の改革を監視・強化し、市民が享受するあらゆる権利を保護するアメリカの長期的な取り組みにつながるはずだ。

それは差別を受けない権利であり、虐待と無法状態が是正される権利だ。反対意見の表明や表現の自由に関わる権利も、法の適正手続きが認められる権利も、経済的権利を保障される権利も全てを含む。

第1にアメリカは、常設の人権委員会を設置すべきだ。この委員会は人権に関する世界基準を確実に満たすため、あらゆる法律を独立した立場から評価できる。こうした委員会であれば、市、州、連邦レベルで必要な条例や法律の改正に提言し、全米で人権政策とそれに伴う教育を提案・促進できるだろう。

この委員会は、今のデモの後に実施されるべき法改正が確実に行われるよう監視できる。全国規模の委員会は地方レベルで同様の機関のネットワークをつくり、全ての公的機関に人権を守らせることもできるだろう。

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