【バー店主の手記】抗議の声を心から支持するが、破壊はデモを台無しにする
Don’t Take it Out on the Little Guy
うちの店があるミネアポリスのウエストバンク地区は、シダーリバーサイドとも呼ばれ、歴史的にヒッピーが多く住んでいる。最近はイスラム教徒の大きなコミュニティーができた。実はパーマーズ・バーの隣もモスク(イスラム礼拝所)だ。モスクの壁一枚隔てた隣がバーだなんて街が、世界のどこにあるだろう。
つまりここはマイノリティーの居住地区だから、暴徒たちが破壊に来ることはないと願っている。それでもフロイドが殺された交差点から5キロほどしか離れていないし、店は大通り沿いにある。興奮した暴徒は手当たり次第に破壊行為を働いているから、安心はできない。
怒りの矛先をよく考えて
私は自暴自棄な人間ではないし、暴力的でもない。もし暴徒が来たら、店の前に立って、「頼む、やめてくれ」と言うつもりだ。ここは私が生涯を懸けた店だ。そのオーナーになって、まだ一番いい時期は経験していないと思う。
略奪や破壊行為を働く連中のことは、本当に理解できない。なぜ自分たちの街にダメージを与えるのか。このまえニュースで、市長がショックで打ちひしがれている様子を見て、涙が出てしまった。本当に胸が締め付けられた。
ただ、人々の怒りが爆発したことについては驚いていない。ミネアポリスでは2016年にも、車のテールランプが壊れているという理由で警察に呼び止められた黒人男性のフィランド・カスティールが、無残に射殺される事件があった。
フロイドの事件の3カ月前には、ジョージア州でジョギング中の黒人男性アマード・アーベリーが、白人住民に殺される事件があった。
新型コロナによる自粛で、長期間仕事にも行けず、自宅にとどまっていなければいけなかったことも、人々の鬱憤がたまり、爆発する原因になったと思う。
私は人々が抗議の声を上げることや、不満や怒りを表明する権利は、心から支持している。私も同じ気持ちでいるからだ。
ただ、怒りの矛先を向ける相手を慎重に考えてほしい。全米に展開する量販店チェーンのターゲットなら、いくつかの店を破壊されても立て直す資金はたっぷりあるだろう。私は違う。
スプレーで落書きするくらいならまだいいが、略奪を働く人たちは、抗議運動を台無しにしていると思う。だからよく考えてほしい。
この店にいるのは私だけだ。42歳の黒人の小僧だ(私はまだ自分を小僧だと思っている)。そしてこのバーは私の夢、私の人生そのものだ。
(筆者はミネアポリス市のシダーリバーサイド地区にある歴史ある「パーマーズ・バー」のオーナー。生粋のミネアポリス育ちで、バーを持つのが長年の夢だったという)
<2020年6月23日号掲載>
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