最新記事

米警察

トランプ、突き飛ばされた白人男性は「アンティファの一味」警官は「はめられた」と陰謀論を主張

Trump Suggests Protester Pushed by Buffalo Police is 'Antifa Provacateur'

2020年6月10日(水)17時25分
ジェニ・フィンク

警官が白人男性を突き飛ばす場面を巡って、トランプがまた分断を煽る(ニューヨーク州バッファロー、6月4日) WBFO/EUTERS

<トランプの卑劣な法螺なのか、それとも何か根拠があるのか。米黒人差別反対暴動の闇>

ニューヨーク州バッファローで行われたデモ参加中に警官に突き飛ばされて倒れ、鼻から血を流したまま放置された白人男性の映像は、警察の暴力の例として世界中を駆け巡り、全米を覆う抗議デモの一つの象徴にもなっている。ところがドナルド・トランプ大統領は、そのマーティン・グジーノ(75)は、被害者どころか、極左集団アンティファの工作員だと言い出した。

グジーノは6月4日夜、黒人男性ジョージ・フロイドの死に抗議する市庁舎前でのデモ参加中に、警官2名に突き飛ばされて入院した。事件の様子をとらえた動画はSNSなどで拡散され、突き飛ばした警官アーロン・トルガルスキーとロバート・マッケイブは、無給の停職処分を受け、第二級暴行罪で起訴された。

入院して重体のグジーノは、非営利団体「西ニューヨーク平和センター」に所属する社会活動家。10年来の知人であるテレンス・ビッソンは地元テレビに対し、グジーノは「愉快でやさしい」人だと話した。一方、グジーノの警察批判のツイートを見て、グジーノが警官に近づいたのは挑発のためだった、と言う人もいる。ビッソンによれば、グジーノは「誰かを怒鳴ったり敵対したりすることは絶対にしない」が、「何かが間違っていると思ったら質問をぶつける」タイプだという。

トランプは6月9日、右派メディア「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク」の報道を引用するかたちで、グジーノは「彼はアンティファの工作員だった可能性がある。突き飛ばされる直前、警官無線をスキャンして壊そうとしているように見えた」と意味不明のツイートをした。「彼は押された力よりわざと激しく転んだように見えた。スキャンを狙っていた。(警官は)罠にかけられたのではないか」

アンティファは急進左派の活動家ネットワークで白人至上主義と戦っているとも言われ、一連の抗議デモや暴動を裏で扇動しているのもアンティファだと、トランプは最初から主張してきた。

「改革の障壁」を支持するトランプ

グジーノが「アンティファのメンバー」だというトランプの主張には、たちまち反論が寄せられた。たとえ本当にアンティファだったとしても、警官のあの暴力を正当化することはできないと言う人もいた。

グジーノの弁護士ケリー・ザルコーニは本誌に対し、グジーノは「常に平和的な抗議者だった」と話した。「アメリカ社会のことを憂いていた」

「それとは違うことをほのめかした法執行関係者はひとりとしていない。それなのに、アメリカの大統領がなぜ、あれほど陰険で危険で根も葉もない言いがかりをつけたのか、理解できない。困惑している」とザルコーニは話した。

バッファローの警察もトランプと似たような意見だ。警察当局は当初、グジーノが「つまずいて転んだ」と動画と矛盾することを主張して市民の怒りを買った。バイロン・ブラウン市長は、加害者の警官たちを擁護するバッファロー市の警察組合は、長らく「歴史のまちがった側」に立ち、「改革の大きな障壁」になっているとして批判した。

バッファロー警察組合長のジョン・エバンスは地元テレビに対し、「警官たちをこの状況に追い込み」「仕事をできなくさせた」のは市当局だと語った。マッケイブの弁護を担当している警察組合の弁護士トーマス・バートンは、「どちらの警官に関も有罪とはとうてい思えない」と述べている。

トルガルスキーとマッケイブが6日に裁判所を出た際には、激励の拍手と歓声が巻き起こった。その前日には、警官57人が、有志による緊急対応チームを辞めた。停職処分になった2人の警官に対する支持を表明するためのだという。

(翻訳:ガリレオ)

<参考記事>米警察はネオナチより極左アンティファがお嫌い
<参考記事>ミネアポリスの抗議デモが暴動に......略奪から店舗を守ろうと武装市民が警護

20200616issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月16日号(6月9日発売)は「米中新冷戦2020」特集。新型コロナと香港問題で我慢の限界を超え、デカップリングへ向かう米中の危うい未来。PLUS パックンがマジメに超解説「黒人暴行死抗議デモの裏事情」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中