最新記事

米中新冷戦2020

「切り離してはならない」米中デカップリングに第2次大戦の教訓

THE GREAT DECOUPLING

2020年6月10日(水)11時50分
キース・ジョンソン、ロビー・グレイマー

世界恐慌後に各国が陥ったゼロサムゲームはやがて全面戦争につながった(真珠湾攻撃で炎上する米海軍の戦艦ウェストバージニア) U.S. Navy/National Archives

<新型コロナウイルス流行で加速する切り離し論。思い出すべきは大戦前夜の日米関係の教訓だ。デカップリングを選択すれば、予測不可能な地政学的影響を招くことにもなりかねない。本誌「米中新冷戦2020」特集より>

彼らを切り離してはならない──アジアの経済大国に駐在する米大使は本国の国務長官に宛てた電報で、そう告げた。「経済的余地」を与えなければ、彼らは力ずくで経済帝国を建設せざるを得なくなる、と。

20200616issue_cover200.jpgだが歴史的な景気低迷のさなか、米政府は経済ナショナリストらの手中にあった。そのため、ジョセフ・グルー駐日米大使が東京から打電した警告に、ホワイトハウスは耳を傾けなかった。1935年のことだ。

その後の数年間、アメリカは日本に対する経済的圧力を強化し、通商禁止や原油禁輸措置に乗り出した。グルーの電報から6年後、日米は全面戦争に突入することになる。

アメリカの政策立案者は現在、アジアの別の経済大国との経済的・地政学的対立に駆られている。1930年代と同じく、吹き荒れているのはデカップリング(切り離し)論だ。

約40年間、深化を続けてきた中国との経済関係を解消し、中国の工場や企業、投資への依存を減らす。よりタカ派的な米政権メンバーにとっては、それこそが終わりなき貿易戦争にとどめを刺す道だ。多くの者の目に危険な抱擁と映る経済関係から身を離したいという欲望は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で拍車が掛かっている。

米議員や政権高官は今や、機密関連の広範な輸出禁止措置や中国産品への追加関税、米企業の強制的なリショアリング(国内回帰)など、数々の措置を検討中だ。中国の「経済的帝国主義」を促進しているとの声も上がるWTO(世界貿易機関)からの完全脱退すら俎上に載せる。

米中2大大国の「グレート・デカップリング」という脅威は、歴史的な断絶になる可能性がある。これに匹敵するのはおそらく、世界初のグローバル化のうねりを突如断ち切った1914年の第1次大戦勃発だけだろう。当時、経済大国として密接に絡み合っていたイギリスやドイツは(後にはアメリカも)自己破壊と経済ナショナリズムの大波に身を投げ、その流れは30年間続いた。

現在、デカップリングを駆り立てているのは戦争ではなく、ポピュリストの衝動だ。そこへきて発生したパンデミックが、国際供給網という知恵やグローバル経済の価値に対する数十年来の信頼に揺さぶりをかけ、デカップリング論を加速させている。

果たしてデカップリングはどこまで進むのか。真に問われるべき唯一の疑問はそれだ。

中国企業の生き残り能力

当然ながら、米中間の貿易をめぐる緊張によって一部の多国籍企業は事業モデルの見直しを迫られ、サプライチェーンをアメリカ寄りに再設定することになる。中国とのビジネス関係をさまざまな度合いで変更すべきだという点で、共和党と民主党の意見は党派を問わず一致している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中