米政権のデモ弾圧を見た西欧諸国は、今度こそアメリカに対する幻想を捨てた
U.S. Allies Look on in Dismay While U.S. Rivals Rejoice
だが過去1週間の混乱で、アメリカが「偽善」のそしりを免れなくなったのは確かだ。アメリカの外交官たちは今後、中国が香港のデモ隊を弾圧しても、イランが国民に暴力を使っても、それを非難しにくくなる。アメリカはこれまで、中国が31年前の天安門事件で民主化を求めるデモ隊を武力鎮圧したことを声高に非難してきたが、今後はそれも説得力を失うだろう。
ドイツをはじめヨーロッパの多くの国々がアメリカに幻滅したのは、この1週間の出来事についてだけではない。NATO批判、親しい同盟国への関税引き上げ、世界貿易機関(WTO)や世界保健機関(WHO)、パリ協定といった重要な国際的枠組みからの脱退など、トランプ政権の身勝手な行動を何度も目の当たりにして、アメリカに対するヨーロッパ諸国の信頼は既に大きく揺らいでいた。
フランスは、もっと長年にわたってアメリカに失望感を抱いてきた。2003年、フランスとアメリカはイラク戦争をめぐって激しく対立。アメリカが対テロ作戦の中で捕虜を虐待した問題で、両国の関係はさらに悪化した。バラク・オバマ前政権時代は関係改善の期待が高まったが、シリア内戦にアメリカが軍事介入しなかったことでフランスの政治家たちは大きく失望した。そこにトランプが登場した。
力を失い続けてきたアメリカ
「ジョージ・W・ブッシュ時代、オバマ時代、そしてトランプが大統領になってからも、アメリカは奇妙な行動を取ってきた。全ては長年の積み重ねだ」と、フランス国際関係研究所の北米専門家であるローレンス・ナードンは言う。「私たちヨーロッパはずっと前から、アメリカに失望してきた」
確かに、国内の混乱がアメリカの世界的な地位を脅かしたのは、今回が初めてではない。20世紀前半に移民制限法が制定されると、(移民としての入国を禁止された)アジア諸国に対するアメリカの影響力が損なわれた。人種的な分断は常に敵に「付け入る隙」を与え、冷戦時代には旧ソ連と中国がアメリカの「偽善」を突くことでアメリカのソフトパワーを切り崩した。1968年の暗殺(マーティン・ルーサー・キング牧師とロバート・ケネディ上院議員)や暴動や反戦デモは、世界の模範となる「丘の上の街」としてのアメリカの輝きを曇らせた。2008年から2009年の金融危機は、中国式の国家資本主義に対抗する力が弱体化した。
だがこれまでと今の大きな違いは、分断を克服し、世界にアメリカの違う一面を見せることができるはずの指導力が欠けていることだ。