最新記事

検証:日本モデル

西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

MATH AND EPIDEMICS

2020年6月2日(火)06時35分
小暮聡子(本誌記者)

國井 アウトブレイク(感染症の突発的発生)を含め、緊急事態では最悪のシナリオを考えて準備するのが基本だ。私はヨーロッパにいて感染爆発の最大風速を体感したが、信じられない勢いで感染者が増えて、全くピークが見えなかった。ドイツでさえ、感染拡大した時期には実効再生産数が4を超えていた。日本では西浦さんをはじめとする専門家、政府・地方自治体、国民の皆さんが必死に努力・行動したから実効再生産数が1未満になったのだと思う。再生産数を2.5に設定したことをもっと下でもよかったと言うのは後出しジャンケンで、油断すれば日本も2.5や3ぐらいになる状況だったと思う。

編集部 日本の実効再生産数の低さについて言うと、西浦先生は今号の寄稿論文で個体別異質性に言及している。日本で感染者数が少ない要因として、何らかの異質性は分かっているのか。

西浦 2次感染に関する異質性と、重症化するかどうかの異質性の2つがある。前者の典型例が、「3密」のような環境に依存した異質性だ。また、年齢で言うと、高齢者が感染したほうがうつしやすく、2次感染が起こる傾向があると分かってきた。重症化については、アジアの人の一部はサイトカインストームという、重症化につながるサイトカイン(免疫系細胞から分泌されるタンパク質)の放出に関わる遺伝子に一部変異がある、ということも科学者の間で最近言及されるようになってきた。

國井 世界的にロックダウン(都市封鎖)や外出禁止などの強硬策がなされたが、死亡率が高い国はやはり高齢者や基礎疾患があるハイリスク層に拡大した。今後集中すべきは、このハイリスクの人々、またホットスポットとなる医療機関や高齢者施設などをどう守るかだ。

編集部 国民全体に対して、何もしなければ42万人が死亡すると言われて皆びっくりしてしまい、接触削減とともに経済が止まった、という批判もある。悲観的な予測によって生じた経済的犠牲が大き過ぎる、と。

西浦 この流行の本質は接触を止めないといけないものであり、それに伴う経済的な影響があるのは政策判断を下す政治家たちも認識してきたことだと思う。しかし、行動変容には被害想定は不可欠なので、あの発表はしなければならなかったと思っている。オーバーリアクトではなかった。ただし、別記事(本誌18ページの寄稿論文)にまとめるが、数字が独り歩きをしてしまったというのはそのとおりで、コミュニケーションの点では、流行対策をこうすれば数字は下げられる、という点をちゃんと伝えなければいけなかったと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中