最新記事

検証:日本モデル

西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

MATH AND EPIDEMICS

2020年6月2日(火)06時35分
小暮聡子(本誌記者)

magSR20200602japanmodel-talk-2.png

本誌6月9日号「検証:日本モデル」特集25ページより 資料:西浦博氏提供 写真:ISSEI KATO-REUTERS

國井 批判としては、新規感染者数がピークを越えて下がっている時点でなぜ緊急事態宣言を延長するのか、と。今の西浦さんの話だと、感染者数が増加し始める前には接触を追跡できていたが、次第に感染の広がりが確認できなくなってきた。

新規感染者数は減ったように見えるが、実際には増えているかもしれない。その理由として、検査を要する人の数や検査の陽性率も上がってきた。ボトルネックである医療提供体制も逼迫状況が続いていた。だから新規感染者の報告数だけでは判断しなかった、と。

西浦 はい。実際のところ、感染者数がある程度下がってきても、自然に下がってそのままゼロになるという考えは理論的に支持されない。例えば韓国を見ても、一度流行が下火になってから1カ月以上、上がったり下がったりが続いた。その先に、バーや物流センターでクラスターが発生した。今どういう状況にあるのかは報告の遅れがあって見えないのと、下火になってからでもいつでも再流行が起こり得る状況にある。

最近まで日本の実効再生産数(ある時点における実際の再生産数)は1を切った状態で維持されてきたが、今回の事例だと、接触率が戻ると実効再生産数も戻ると考えられる。というのも実効再生産数は2つの要素に比例していて、1つが感受性を有する人の比率で、何%の人が免疫を持っているのかを差し引いたものだ。

もう1つは接触率であり、接触回数に依存する。感受性を持っている人に関しては今はほぼ100%に近いまま移行しているので、実効再生産数はほぼ接触率だけで決まっている。つまり接触が元に戻ると、実効再生産数は一気に上がってしまう。

國井 基本再生産数をヨーロッパ並みの2.5に設定しているのはなぜか。日本はもっと低いのではという見方もあるようだが。

西浦 日本の基本再生産数がいくつなのかは、今の時点では分かっていない。だが、3月の時点で、流行対策がされているなかでの実効再生産数として一度、全国で安定したのが、2を少し超えたくらいだった。

東京では、瞬間風速ぐらいの水準で数日の間、増殖している頃に維持していた実効再生産数が、2.6だった。これが接触を削減する行動を伴っているときであることも加味すれば、私は2.5は決して高い値であるとは考えていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

〔マクロスコープ〕迫るタイムリミット? ソフトバン

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中