最新記事

ベネズエラ

ロンドンの地下金庫に眠る金塊 ベネズエラ「2人の大統領」の争奪戦は司法の場へ

2020年6月28日(日)13時35分

事の発端は、マドゥロ氏の再選が決まった2018年5月だ。野党連合は選挙をボイコットし、違憲であると主張。英国のジョンソン外相(当時)が「ベネズエラに対する経済的な締め付けを厳しくしなければならないかもしれない」と口にした。マドゥロ政権に対する制裁強化を懸念したベネズエラ中銀は、英中銀に対し、預託している金資産14トンを自国に返還することを求めた。

ベネズエラ中銀の弁護士サロシュ・ザイワラ氏によると、18年末ごろ、オルテガ総裁はこの件について英中銀当局者と協議するためロンドンを訪れた。英中銀側はオルテガ総裁に対し、同氏の権限に疑義があるため、指示には従えないと応じたという。

19年2月、英国は他の多くの国とともにグアイド氏を支持する側に回った。米国の財務省は同年4月、ベネズエラ中銀に制裁を科した。「腐敗した政権関係者の蓄財のために」、マドゥロ氏がベネズエラ中銀を利用して資産を「略奪」しているというのが理由だった。

ベネズエラが保有する金の約4分の1がロンドンに

ベネズエラはこの制裁前、同国中銀が金を担保にドイツ銀行から調達していた資金を返済。英中銀に保管されている金17トン分がベネズエラ中銀の管理下に戻り、合計で31トンとなった。これはベネズエラが保有する金の約4分の1に相当する。グアイド氏の弁護団が裁判所に提出した記録によると、ベネズエラ中銀はそのほかの金スワップ契約も前倒して解除、さらに多くの金資産が中銀管理下に戻った。

グアイド氏側が英国の裁判所に求めているのは、ベネズエラ中銀を代表して金資産を受け取る権限を有する者は誰かという判断だ。昨年7月、グアイド氏は中央銀行理事を独自に任命している。

今年2月、マドゥロ政権は法律事務所を交代、ザイワラ氏と契約した。ザイワラ氏は、英国政府を相手に損害賠償を起こしたイラン国営メラット銀行の弁護士を務めたことがある。経済制裁によってメラット銀行の名声と事業価値が棄損したと訴えたもので、英政府は昨年、和解金12億5000万ポンド(1700億円)を支払った。

「英国の裁判所の判断は世界的に尊重される。今回の訴訟が大きな意義を持つのは確実だ」と、ザイワラ氏は言う。


【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 7

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中