ロンドンの地下金庫に眠る金塊 ベネズエラ「2人の大統領」の争奪戦は司法の場へ
事の発端は、マドゥロ氏の再選が決まった2018年5月だ。野党連合は選挙をボイコットし、違憲であると主張。英国のジョンソン外相(当時)が「ベネズエラに対する経済的な締め付けを厳しくしなければならないかもしれない」と口にした。マドゥロ政権に対する制裁強化を懸念したベネズエラ中銀は、英中銀に対し、預託している金資産14トンを自国に返還することを求めた。
ベネズエラ中銀の弁護士サロシュ・ザイワラ氏によると、18年末ごろ、オルテガ総裁はこの件について英中銀当局者と協議するためロンドンを訪れた。英中銀側はオルテガ総裁に対し、同氏の権限に疑義があるため、指示には従えないと応じたという。
19年2月、英国は他の多くの国とともにグアイド氏を支持する側に回った。米国の財務省は同年4月、ベネズエラ中銀に制裁を科した。「腐敗した政権関係者の蓄財のために」、マドゥロ氏がベネズエラ中銀を利用して資産を「略奪」しているというのが理由だった。
ベネズエラが保有する金の約4分の1がロンドンに
ベネズエラはこの制裁前、同国中銀が金を担保にドイツ銀行から調達していた資金を返済。英中銀に保管されている金17トン分がベネズエラ中銀の管理下に戻り、合計で31トンとなった。これはベネズエラが保有する金の約4分の1に相当する。グアイド氏の弁護団が裁判所に提出した記録によると、ベネズエラ中銀はそのほかの金スワップ契約も前倒して解除、さらに多くの金資産が中銀管理下に戻った。
グアイド氏側が英国の裁判所に求めているのは、ベネズエラ中銀を代表して金資産を受け取る権限を有する者は誰かという判断だ。昨年7月、グアイド氏は中央銀行理事を独自に任命している。
今年2月、マドゥロ政権は法律事務所を交代、ザイワラ氏と契約した。ザイワラ氏は、英国政府を相手に損害賠償を起こしたイラン国営メラット銀行の弁護士を務めたことがある。経済制裁によってメラット銀行の名声と事業価値が棄損したと訴えたもので、英政府は昨年、和解金12億5000万ポンド(1700億円)を支払った。
「英国の裁判所の判断は世界的に尊重される。今回の訴訟が大きな意義を持つのは確実だ」と、ザイワラ氏は言う。
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