最新記事

新型コロナウイルス

貧困、紛争に苦しむ脆弱国家からの、コロナ第2波を防ぐには

2020年6月25日(木)15時45分
デービッド・キャメロン(元英首相)、エレン・サーリーフ(前リベリア大統領)、ドナルド・カベルカ(アフリカ連合平和基金特使)

感染拡大の防止に必要な体制が整っていない国も多い(イエメン) KHALED ABDULLAH-REUTERS

<平均年齢の若さやヒト・モノの動きの少なさから、脆弱な国々は新型コロナ危機を免れると楽観視されていたが、今や感染は拡大中>

新型コロナウイルス感染症の影響を免れている国はない。しかし、貧困、紛争、汚職、政府の機能不全に悩まされている「脆弱国家」は、とりわけ甚だしい影響を被っている場合がある。

脆弱国家は、感染症の流行に対処するために必要な要素を欠いている。その要素とは、大掛かりな対策を立案・実行する能力を持った政府、ルールを徹底させる警察力、感染者に資金と物資と医療ケアを提供するための体制などだ。

このような国では概して、医療体制の整備が遅れている。集中治療室の病床数は、ヨーロッパでは人口100万人当たり4000床なのに対し、アフリカの多くの国では5床にすぎない。

感染症対策を成功させるには、政府に対する国民の信頼も必要だ。しかし、内戦や汚職に悩まされている国の国民は、なかなか政府の指示に従おうとは思わないだろう。

経済的な打撃を跳ね返す上では、強力な民間経済も欠かせない。人々は生計を立てるために職が必要だし、収入を得られない人を助けるためには、政府が税収を得なくてはならないからだ。しかし、脆弱国家では(闇経済はともかく)強力な民間経済が育っていない場合が多い。

新型コロナウイルス危機の初期には、脆弱国家は深刻な事態を避けられるという楽観論もあった。平均年齢が若いことや、ほかの国々とのヒトやモノの流れが比較的少ないことが理由だ。

しかし、「国家脆弱性評議会」の共同議長を務める私たちの立場から言えば、楽観論どおりにはなっていない。最近、スーダン、南スーダン、ソマリア、イエメンでは、感染率と死亡率が中進国に匹敵する水準に達している。

世界規模の景気後退により、経済的打撃を受けやすい

しかも、脆弱国家は豊かな国以上に、世界的な感染拡大による経済的打撃を受けやすい。中国などとの貿易が大幅に縮小し、国外在住者から祖国の家族への送金も激減した。世界規模の景気後退により、これらの国々の有力な収入源である石油などの1次産品の相場も落ち込んだ。財政赤字も膨らみ始めている。

飢餓のリスクを指摘する声も高まっている。脆弱国家は、食料の多くを輸入に依存しているからだ。

忘れてはならない。貧しい国の問題は、しばしば世界全体の問題になる。大量の移民もそうだったし、組織犯罪やテロの問題も全世界に波及した。

脆弱国家が目下の危機を乗り切り、厳しい状況全般に対処するために、私たちは以下の5つの提案をしたい。

<参考記事>「検査と隔離」もウイルス第2波は止められない 米専門家

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中