最新記事

コロナ時代の個人情報

感染拡大は「野球に例えれば今はまだ2回の表」、米感染症専門家

MAXIMUM UNCERTAINTY

2020年6月24日(水)18時00分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

多数の犠牲者が出たニューヨーク都市圏でも集団免疫の獲得には程遠い MICROSTOCKHUB-E+/GETTY IMAGES

<新型コロナの流行は数カ月~数年は収まらない。疫学の第一人者に聞くパンデミックの次なる段階とは──。検査数を増やすべきか。接触追跡の導入は現実的か。本誌「コロナ時代の個人情報」特集より>

世界は、新型コロナウイルス禍の新たな段階に突入しつつある。厳しいソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)戦略により、ニューヨークやイタリア、イギリスなど感染拡大が深刻だった地域では第1波は何とか抑え込んだ。今後の課題は、再び感染爆発が起きて医療システムが崩壊するのを防ぎつつ、いかに行動制限を緩和して人々の暮らしと精神的健康を守っていくかだ。

20200623issue_cover200.jpgところが、新型コロナで疲弊した国の活動をどう再開していくかについての「総意」は存在しない。政治家と公衆衛生の専門家の考え方はしばしば衝突し、専門家の中でも2つの意見が対立している。一方は、感染者と接触した可能性がある全ての人を追跡し、14日間の自主隔離を求める接触追跡を行うべきだと言う。もう一方は、接触追跡を有効なウイルス防御策と見なしていない。特にアメリカのように、他人に詮索されたり指図されたりするのを嫌う人が多い国では難しい、と。

さまざまな不確実性があるなか、ウイルスから身を守るのはいわば「自己責任」という局面になりつつある。アメリカでは新型コロナで死亡する危険性が高い高齢者もしくは基礎疾患のある人が、国民全体の約40%に上る。今年の夏、彼らやその近親者は、どこまで感染リスクを冒す覚悟なのかが問われるだろう。

疫学の第一人者で、米ミネソタ大学感染症研究・政策センター所長のマイケル・オスターホルムは言う。「飲酒運転の取り締まりは政府がやるべきだ。だが私たち国民も行動に責任を持ち、酒を飲んだら運転しないというけじめをつけなくては」

オスターホルムは早い段階から、新型コロナがパンデミック(世界的大流行)を引き起こし、都市部に最も大きな打撃をもたらすだろうと警告していた。だが、今後の展開については極めて不透明だと言う。新型コロナは、一般的な風邪を引き起こすのと同じコロナウイルスの一種。だが急速に感染拡大し、発症すると急激に症状のピークを迎えるなどインフルエンザの特徴に近い。夏に向けて、このウイルスがどうなっていくかは誰にも分からない。

確かなのは、経済的な苦境が人々の暮らしや心の健康に打撃を与えていること。そしてパンデミックの終息には程遠いことだ。秋には感染の第2波が来るかもしれず、その致死率は第1波より高くなる可能性もある。「このウイルスは今後も、あらがいようのない勢いで広がり続けるだろう」と、オスターホルムは言う。「生物学的にも化学的にも物理学的にもそう言える。どんな政策でも阻止できない」

新型コロナウイルスの今後の流行について、本誌フレッド・グタール(サイエンス担当)がオスターホルムに聞いた。

【関連記事】アメリカが接触追跡アプリの導入に足踏みする理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中