最新記事

コロナ禍の世界

米独で集団感染が続く食肉加工工場 肉食を見直すべきとの声も

2020年5月25日(月)15時10分
モーゲンスタン陽子

しかしながら先週、ディスカウントスーパー大手のAldiは、原材料の豚肉の価格低下を理由に、食肉業界にサラミやソーセージなどの加工品の値下げを要求した(シュピーゲル)。コロナ危機のなか供給を確保しようと業界が努力し、また政府が労働環境を改善しようとするタイミングでのこの要求に、「完全に思慮を欠いている」と、不快感や批判の声が向けられている。

肉食をやめることが地球温暖化のブレーキに

アメリカでも、アイオワ州の工場で2800人の従業員の半数近くが感染するなど、食肉加工工場でのクラスター発生は深刻だ。閉鎖した工場では家畜が余剰となり、安楽死を余儀なくされている。また、そのほとんどが移民である労働者たちは失業を恐れ、体調が悪くても出勤を続けがちだ。「安い肉」を手に入れるために労働者たちの置かれた環境に目を背けるという構図はここでも同じだ。

ドイツ同様、肉料理はアメリカに欠かせないだろう。少しでも安い肉への需要も大きい。が、アメリカでは価格よりも、肉食という習慣そのものに対し見直しの声が上がっているようだ。

気候変動に対する非営利組織ドローダウンによると、植物ベースの食事をすることは「地球温暖化を元に戻すために誰もができる最も重要な貢献」だという。

とくに効果的なのは、牛肉食を減らすことだ。牛は食品産業のなかで最も炭素を多く消費する部分で、農業排出の62%は牛の飼育が原因だ。もし牛が「国」だったなら、それは世界で3番目に大きな温室効果ガス排出国に相当するという(ワシントン・ポスト)。

反芻動物である牛のゲップには多量のメタンガスが含まれ、牛肉はタンパク質1gあたり鶏肉や豚肉の約2倍、豆の約20倍の土地を必要とする。また、2018年の調査によると、約1240万エーカーの森林(イエローストーン国立公園5つ以上に相当)が毎年、農産業のために伐採されている。地球上の氷のない土地の30%が家畜の牧草地として使用されている。

ヨーロッパ同様、アメリカでも若者たちのあいだでベジタリアンやヴィーガンが増えているというが、多くの人にとって長く慣れ親しんだ肉食を急にやめるのはむずかしいだろう。だが、誰もが牛肉を食べる回数を少し減らすだけでも、多少の効果はあるかもしれない。

さらに、Covid-19を含めいくつかのパンデミックがウェットマーケット(おもにアジアの生鮮市場)やバードマーケットから発生していること、アメリカ疾病予防管理センター(C.D.C. )が新しく発生した4つの感染症のうち3つが人畜共通感染症であると指摘していることなどから、肉に対する恐怖感も広まっている。

皮肉なことに、ロックダウンにより大気汚染や水質が改善された。今度は食習慣の見直しをするときかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一

ワールド

アングル:米政権の長射程兵器攻撃容認、背景に北朝鮮

ワールド

11月インドPMI、サービスが3カ月ぶり高水準 コ

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中