「緊急事態解除の日」遠い医療現場 他院が拒否した新型コロナ患者受け入れる聖マリアンナ病院の葛藤
ICUの収容能力は限界
正午過ぎ、前の晩からの徹夜勤務を終えた森川大樹医長は、東棟のコンクリート階段を上り、壁に大きなスクリーンがかかる会議室に入った。各科の責任者が、ここで新型コロナへの対応状況を報告し合う。
感染した疑いのある患者2人について、やり取りが始まった。「2人ともマイナス(陰性)でした」。「じゃぁ、もうロールアウト(一般病棟に移す)して大丈夫?」
「1人は大丈夫なんです」と森川医長が答える。「けれど、もう1人は濃厚接触者といた人なので、すぐには除外できません」。
会議を主催していた藤谷センター長が、その1人をセンターに残すという指示を出した。
森川医長は会議が終わると、カラフルな表を広げて見せてくれた。新型コロナの治療に当たる自身のチームを含めたICU内の勤務シフトだった。
「はじめは救急(担当チーム)だけでやっていたんだけど、パンクしてしまうということで、外科とか循環器内科とか(他の担当部門)から4人入れているんです」と森川さん。
「現在は最大で15人のコロナの患者を診る体制でこうなっているので、これ以上増やすというのには限界があると思う」
ある時、ICUの能力すべてを新型コロナ患者に集中するべきではないか、という議論もあった。しかし、その提案は通らなかった。
「コロナじゃない他の患者はどこが診るのか。そういう問題もあった」と、森川医長は話す。同センターでは新型コロナの重症者向けの15床に加え、地域の医療機関として果たさなければいけない役割がある。2月以降、コロナ患者に対応しながらも、心臓発作や脳卒中などの重症患者も診療している。
家族との別れはiPad越し
病棟の扉の外で、診療看護師の小波本直也さんが大きなため息をついていた。
「もう終わりが見えない」と、1カ月前に新型コロナ対応チームに加わった小波本さんは患者のことを語り始めた。
「良くならないんですよ。治療反応がない。挿管したら8割が亡くなるというデータもありました。だけど、どうしてもこの患者さんは(ご家族に)つなげてあげたいと思うんです」
医師が患者の最期が近いことを察知すると、小波本さんは家族に電話をかけ、病院に呼ぶ。家族は患者の側には行けないが、iPadのアプリ越しに声をかける。
手袋を二重にはめ、フェイスシールドとマスク、ビニール製ガウンを重ね着した小波本さんは、もうすでに意識がない患者にiPadを近づける。家族は思い出を共有し、最後の別れを告げる。
「お父さんは頑張っていますよ、早く帰れるように頑張っていますよ、とご家族の皆さんには伝えます」。小波本さんは息を引き取りつつある患者に語り続けた。
担当医師が死亡診断を下す様子もiPadで遺族に伝える。最後の別れをしたいと希望する遺族には、小波本さんが亡くなった人の写真を自分の携帯で撮影して送ることもある。
故人が飾っていた家族の集合写真を見たり、家族との手紙を通して「(その患者が)どういう人だったのか想像できる。」と小波本さんは言う。「(TV電話などで)患者と家族をつなげられるということが一つの癒しにはなっていますね。」