新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領
Brazil’s Perfect Storm
連邦議会は3月末、非正規雇用者や自営業者を対象に、緊急援助金として月600(約1万1000円)を支給する法案を可決。4月9日から給付が始まっているが、計画の実施には遅れや混乱が生じている。
シルバによれば、援助金を受け取るには銀行口座や、サイトやアプリでの申し込みが必要なため、マレ地区の住民で受け取れる人はほとんどいない。運よく受給できたとしても、「この金額では焼け石に水」だと、彼女は言う。
光が見えない支援活動
ファベーラでは医療システムが崩壊している。シルバによれば、マレ地区には医療センターが7カ所と中規模の病院が1カ所あるが、どれもコロナ禍の前から限界に達していた。彼女に言わせれば、医療システムは「完全な混乱状態」にあり、新型コロナウイルス感染症以外の病気の治療は中止されている。
特に危険にさらされているのが、ホームレスや薬物依存の問題を抱えている人々だ。マリア・アンジェリカ・コミスは、サンパウロでホームレスや薬物依存者を支援する団体エ・ジ・レイのコーディネーター。コロナ禍が始まってから組織の役割を転換し、健康指導プログラムを実施したり、医療用品や飲料水の配給などに取り組んでいる。
だが、活動には光が見えない。「状況は実に急速に悪化した」と、コミスは言う。支援は企業などからの食料の寄付に頼っているため、コロナ禍の影響でビジネスが停滞すれば、寄付が打ち切られて食料は底を突く。
さらにコミスは、事態を悪化させているのは連邦政府だと主張する。「ブラジルが新型コロナウイルスのせいで危機にあることを、政府は組織ぐるみで否定しようとしている」。サンパウロ市当局はホームレスへのサービスを何とか継続し、食料を提供しようとしているが、とても十分とは言えない。
「警察関係者の暴力も問題」と、コミスは言う。ホームレスの人々が警官から嫌がらせを受けたり、ゴム弾や催涙ガスで攻撃されるなどしている。
新型コロナウイルスの検査や医療を受ける機会がほとんどないなかで、ホームレスの人々は通りで死にかけている。彼らにも医療機関を受診する権利はあるが、「病院に行っても偏見や差別にさらされることが分かっているため、行かない人が多い」と、コミスは言う。
ギャング団が感染防止策
本誌が取材する前の10日間に少なくとも20人のホームレスが亡くなったと、コミスは語る。もちろん把握できている数字は全体像のほんの一部であり、多くの死者は記録にも残らない。大惨事の本当の規模を測ることは困難だ。