新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領
Brazil’s Perfect Storm
リオデジャネイロのファベーラ、コンプレクソ・ド・アレマンで支援活動を行う団体コレチーボ・パポ・ヘトのラウル・サンティアゴ副代表は「新型コロナウイルスの危機は、既にあった大きな不平等をさらに拡大させた」と語る。そこから生まれたのは新たな「惨事」だと、彼は言う。
大統領が危機を無視する限り、問題に真正面と向き合うことはできない。「私たちが抱える最大の問題は、WHO(世界保健機関)に盾突く主張をするボルソナロのような人物が大統領の座にあることだ」と、サンティアゴは語る。「社会的距離の確保を励行せずに普通の生活を続けるよう、人々をたきつけている」
コレチーボ・パポ・ヘトは、飲料水もなく密集した環境に暮らす住民を守ることに苦心している。食料不足による飢えは「これまで以上に現実的な問題になった」と、サンティアゴは言う。団体の活動は寄付に頼っているため問題山積で、政府からの支援は全くないと、彼は訴える。
一部のファベーラでは、政府の仕事をギャング団が肩代わりしている。ファベーラを長年取り仕切ってきた犯罪組織が、医療品や飲料水を配給したり、外出禁止令を出すなどの措置を独自に講じているという。
「政府はファベーラを助けるために動くつもりはない」と、サンティアゴは言う。しかも、危機を乗り切るための情報さえ与えていない。
ボルソナロは5月5日、ブラジルの新型コロナウイルス大流行の「最悪の事態は終わった」と宣言した。だが、死者と感染者は増え続けている。しかもブラジルはこれから冬に入り、感染症が流行しやすい季節を迎える。
取材した活動家の中に、大統領のような楽観主義者は1人もいなかった。ボルソナロの発言に納得するかと尋ねると、サンティアゴは吐き捨てた。「ばかばかしい」
<本誌2020年5月26日号掲載>
【参考記事】ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがいつかは死ぬ」
【参考記事】ボルソナロの成績表:差別発言を連発する「問題児」、アマゾン森林火災で世界を敵に
2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?