最新記事

感染症対策

日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議

Japan’s Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway

2020年5月15日(金)16時50分
ウィリアム・スポサト(ジャーナリスト)

5月14日、緊急事態宣言の「中間報告」を行った安倍首相 Akio Kon/Pool via REUTERS

<PCR検査の実施件数は極端に少なく緊急事態宣言には強制力が伴わないのに感染者数が着実に減りつつあるのは何故か>

日本の新型コロナウイルス対策は、何から何まで間違っているように思える。これまでにウイルス検査を受けた人は人口のわずか0.185%で、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)の導入も要請ベースと中途半端。国民の過半数が、政府の対応に批判的だ。それでも日本は、感染者の死亡率が世界で最も低い部類に入り、医療システムの崩壊も免れ、感染者数も減りつつある。全てがいい方向に向かっているように見えるのだ。

当局者たちは感染拡大が始まった当初、検査対象を「入院が必要になる可能性が高い重症患者」に絞り、感染で死亡する人の数を減らすことを全体目標に掲げた。世界保健機関(WHO)西太平洋地域の元事務局長で、日本政府の同ウイルス対策専門家会議の副座長を務める尾身茂は2月半ば、「感染拡大のスピードを抑え、死亡率を下げることがこの戦略の目標だ」と言っていた。

その成果は見事なものだ。5月14日時点で、日本でCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)が直接の原因で死亡した人の数は687人。人口100万人あたりの死者数では日本が5人なのに対し、アメリカは258人、スペインは584人。ウイルスとの闘いに成功したと見られているドイツでさえ94人だ。

ただの幸運か

日本がウイルスの発生源である中国に近く、中国から大勢の観光客を受け入れてきたことを考えると、この死亡率の低さは奇跡に近い。また日本は世界で最も高齢化が進んでいる国でありながら、高齢者が深刻な打撃を免れているようにも見える。日本の複数の専門家は、政府が発表する数字は実際の数字よりも少ない可能性があると認めているが、一方で肺炎など同ウイルスに関連する病気が原因で死亡する人の数が予想外に急増する事態もみられていないとも言っている。

これは日本がラッキーなだけなのか。それとも優れた政策の成果なのか、見極めるのは難しい。

政府高官たちでさえ、今後の予測については慎重な姿勢を維持してきた。安倍晋三総理大臣はわずか2週間ほど前の4月下旬、「残念ながら感染者の数は増え続けている」と言い、「状況は引き続き深刻だ」と警告していた。さらに気掛かりなのが、一部とはいえ医療崩壊が起こっている可能性が指摘されていることだ。日本救急医学会は4月半ばに声明を出し、「救急医療体制の崩壊を既に実感している」と危機感を示した。

<参考記事>「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
<参考記事>繰り返される日本の失敗パターン

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、無人機45機撃墜 モスクワ市長「過去最大級

ワールド

ガザで新たに50人死亡、停戦合意へ外交努力継続も打

ビジネス

中国シャオミ、第2四半期売上高は予想上回る 自動車

ワールド

ロシアで人気アプリへのアクセス遮断、DDoS攻撃に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン・イスラエル戦争?
特集:イラン・イスラエル戦争?
2024年8月27日号(8/20発売)

「客人」ハマス指導者を首都で暗殺されたイランのイスラエル報復が中東大戦に拡大する日。

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘密の部屋」を公開...あまりの狭さに「私には絶対無理」との声も
  • 2
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 3
    「海外でステージを見られたらうれしい」――YOSHIKIが語る、世界に挑戦するNumber_iへのメッセージ
  • 4
    全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタ…
  • 5
    中国諜報機関が大失態!中国軍の武威を示すポスター…
  • 6
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 7
    竜巻に巻き込まれ、地中海で豪華ヨットが沈没...「英…
  • 8
    コロナ後遺症ここまで分かった...「感染時は軽度」が…
  • 9
    多数のロシア兵が戦わずして降伏...「プーチン神話」…
  • 10
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシ…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 3
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア戦車を爆破する瞬間「開いたハッチは最高のプレゼント」
  • 4
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 5
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
  • 6
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 7
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    シングルマザー世帯にとって夏休みは過酷な期間
  • 10
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 5
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 6
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 7
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 8
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 9
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 10
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中